「否めない」:意味
「否(いな)めない」という言葉は、文法的には「否(いな)む」の可能動詞「いなめる」の未然形に打ち消しの助動詞「ない」の付いたものです。
「否(いな)む」は「嫌だと言う」「断る」「辞退する」という意味を持ちます。また、漢字を見ればわかるように、「否定する」という意味でも使われる言葉です。
とはいえ、「否む」がこの形で使われることはまずなく、否定形である「否めない」という言い回しの方が一般的です。
「嫌だと言う」ことや「否定する」ということができないのですから、「断ることができない」「否定できない」という意味を持ちます。
断ることができない
「否めない」という言葉は、「断ることができない」という意味で使われます。例えば「否めない命令」といえば、上司などから言いつけられた、断ることのできない命令のことです。
強制力のある命令でない、「頼み・お願い」などにも使われます。「彼女の頼みは否めない。」というと、その女性が好き、あるいは怖い、といった理由で、その頼みを断ることができないのだろうな、と推測される言い方です。
「否めない」には、実際は断ることはできるけれども、状況的に断ることができないというニュアンスが含まれています。
- 部長直々のご招待、新入社員の私には否めないよ。
- 惚れた弱みというやつで、彼女のおねだりはどうしても否めない。
否定できない
「否定できない」という意味で「否めない」という言葉を使うことがあります。可能性や見込みを含ませるニュアンスがあり、文章として使うのはこちらの意味の方が多いでしょう。
「否めない事実」といえば、起きてしまったことや、やってしまったことなどを否定できないという意味です。
例えば、好きだった人に告白したが、玉砕してしまった時など、受け入れたくはないが「彼にふられたことは、否めない事実である」というように使われます。
注意したいのは、たとえば先の例文で、打ち消しの「ない」が否定しているのは「事実」ではなく、「否むことが可能かどうか」であること、「その事実がなかった」のではなく、「その事実を否定できない」という意味であるということです。
「その可能性は否めない。」という文章は「その可能性はない」ということではなく、「その可能性は否定できない」という意味を持つことを、覚えておきましょう。
「否めない」:使い方
前述のように、「否めない」には「断ることができない」「否定できない」の2つの意味があります。しかし、使用される頻度には極端な差があり、ほとんどの場合「否定できない」という意味で使われているのは、「否めない事実」です。
「断ることができない」の方は、すでに例文をいくつかご紹介しましたので、こちらの項では、日常的によく使われる「否定できない」という意味での使い方を重点的に紹介します。
否定できない=肯定
「否」という漢字を使っているので、意味を混同しやすいのですが、「その可能性は否めない」とは「その可能性は否定できない」という意味でしたね。
つまり、「その可能性がないとはいえない」「その可能性があるかもしれない」ということです。「100%そうである」という状態ではありませんが、「0%ではないと思う」という意が含まれています。
少々はっきりしない表現に感じる言葉ですが、基本的には言いにくいことを和らげるために使われることが多い表現です。
言葉を和らげる
日本語の表現の中では、白黒はっきりとした表現をすることが避けられるケースもあります。「否めない」もそんな微妙なニュアンスを伝えることができます。
「否定したいけど、できない」「そうあって欲しくないけれど、そうだ」のような好ましくはない状況に対して用いられます。否定したい気持ちはあってもそれが事実であるという状態を表す言葉です。
例文
- 彼女は優秀だが、まだ頼りないところがあるのは否めない。
- 私がだらしない人間であるということは否めない。
- 彼女のファッションは、時代遅れ感が否めない。
- どんなに辛くても、それは否めない事実だ。
- 近頃、体が重く感じるのは、運動不足が理由であることは否めない。