「迂遠」の読み方
「迂遠」の読み方は「うえん」です。「迂」は「迂回」にも使われるので読み方はさほど難しくないでしょう。なお、アクセントは先頭にはつけません。「うえん」です。
「迂遠」の意味
まわりくどい
「迂遠」の一つ目の意味は、回りくどくて遠回しなことです。どこにでも、話が「無駄に」長い人はいますよね。一言でいえば「何が言いたいの?」と言いたくなるような話し方が「迂遠な話し方」です。
前置きが長かったり、やたらと「喩え」が多かったりする話、あるいは、探りを入れるような話し方は、度が過ぎると聞いていて辛くなってきますね。
会話以外では、作業の進め方などにも使います。ここで思い浮かべてほしいのは根回しが必要な上司です。事前に話を通しておかないと後から文句を言ってくるような厄介な人です。
効率を考えて、さっさと作業に入らせてほしい、と思う人からするとすごく遠回りですよね。こういったやり方も「迂遠」と呼ばれます。
役に立たない
「迂遠」の二つ目の意味は役に立たない、実用的ではないことです。先ほど、一つ目の意味として「回りくどくて遠回し」と書きました。
もし、シンプルなやり方と回りくどいやり方があったとしたら、どちらを選ぶでしょうか?おそらくほとんどの人はシンプルな方を選ぶはず。となると、回りくどい方は使われず役に立ちませんよね。
世に疎い
「迂遠」の三つ目の意味は世に疎いというものです。二つ目の意味「役に立たない」と一部重なっています。先ほどの例で、通常は使われない回りくどい方法を選ぶ人がいるとします。そんな非実用的な方を選ぶのはどんな人でしょうか。
単なるもの好きやひねくれ者である可能性も否定しきれませが、ほとんどの場合、単にシンプルな方法を知らない人だと思われます。
あるいは、最近の情報についてきていない人、流行に乗れていない人のことをどう思われますか?「世の中の流れのスピードについてきていない人、遠回りをしている人」という印象がありますね。「迂遠」とはこうした、世に疎い人のことを表す言葉です。
話が脱線しやすい
精神医学分野で専門用語として「迂遠」という言葉が使われることもあります。「迂遠」は思考過程の障害の一つとされる、横道にそれて話がまっすぐ進まない状態です。重要ではないことを逐一取り上げて要領を得ない考え方・話し方をしてしまう様子を表します。
「迂遠」の字義
「迂」という字には回り道、遠回りという意味があります。「遠」はもちろん遠いことです。曲がりくねった道を進むような、不便な思いをするという意味にはぴったりな字ですね。
「迂遠」とは元々道が曲がりくねっているので、目的地までなかなかたどり着けないという意味でした。そこから、話し方などがストレートではないことや役に立たないことなどを表す言葉として使われるようになったと考えられます。
「迂遠」の使い方
「迂遠」は会話文ではめったに使われません。文章では「迂遠だ」や「迂遠な」といった形で形容動詞として使われます。
- 何をするにも一つ一つ会議で上役の許可を得る必要がある。こんな迂遠なやり方ではプロジェクトがなかなか進まないよ。
- いまどき、長唄が趣味だなんて迂遠な学生もいるもんだ。
「迂遠」の用例
「迂遠」はやはり文語の中でよく見られるものですから、最近の文章にはあまり登場しません。下に例として挙げる2つの文章は、明治・大正期に書かれたものです。
実際的の問題は往々意想外に複雑であるから、一通り以上に述べたような分析をしてその結果を綜合しても事実上そう思った通りにならぬ場合がある。そういう時に世人はよく理論と実際という常套語を持出して科学者の迂遠を冷笑するのが例である。
寺戸虎彦『物理学の応用について』より
実はこの側から、彼の心を動かして、旨く油の乗った所を、中途から転がして、元の家庭へ滑り込ませるのが、代助の計画であった。代助はこの迂遠で、又尤も困難の方法の出立点から、程遠からぬ所で、蹉跌してしまった。
夏目漱石『それから』より
「迂遠」の類語
間接的
「間接的」とは間になにか仲介するものを挟んだ関係です。単に遠回しなだけでなく、間にだれか、あるいは何かを挟んでワンクッション置くやり方を指します。対義語はもちろん「直接的」、間に何も挟まない『ダイレクト』な関係を表す言葉です。
婉曲
「婉曲」とは穏やかで角が立たない話し方です。それとなく、遠回しな言い回しを指します。露骨さやストレートな表現とは真逆ですね。あくまでも穏やかに話すことを指す言葉ですので、遠回しな皮肉や悪口には当てはまらないでしょう。
冗長
「冗長」は、「迂遠」と同じように長い話を表す言葉です。「迂遠」が、単に話が長いだけで目的ははっきりしていることを表すのに対して、「冗長」は場合によっては話の目的すら見失っている可能性を含んでいます。