「食い扶持」の読み方と意味
「食い扶持」(読み:くいぶち)は古くからある言葉ですが、今ではあまり使われていません。
噛んで飲み込む意味の「食う」が、「食べる」よりも丁寧さに欠けるため、使うのをためらうという方もいるようです。食い扶持には大きく分けて2つの意味があります。
1.食べ物を買うための費用
「食い扶持」は、日々の暮らしの中において食べ物を買うための費用・食べ物を購入するのに必要な金額を指すことが多いです。文語的な表現なので、小説を読んでいて目にすることがあるかもしれません。
現代の会話の中で出てくる場合は、親しい方との間であえて古めかしい言い方をして、食べるためのお金と強調したり、印象づけたりする時に使われるのではないでしょうか。
【使用例】
- 就職をしたので、「毎月の給料から食い扶持を入れろ」と親に言われた。
- 親族の家に子供を下宿させるため、月に2万円の食い扶持を送ることになった。
2.生活にかかる費用
「食い扶持」を食べるための費用から拡大させて、生活全般にかかる費用・日々の暮らしに必要なお金ということを表すために用いる場合もあります。
「食う」には派生した意味があり、食べることを「生きて行くために必要な物事」と考え「生活する」・「暮らす」という意味合いでも使われるようになりました。
【使用例】
- 食い扶持を稼ぐために、基本給が高い会社に転職した。
- 医療費がかさんで食い扶持がかかるため、副業を始めることにしました。
「食い扶持」の「扶持」とは?
「食い扶持」の「扶持」には、以下のような意味があります。
- 援助すること、生活を助けること。
- 主君が家臣に与える俸禄のこと、また俸禄を支給して召し抱えること
「扶持」の歴史
上記のうち、1が「扶持」の原義です。「扶」・「持」双方とも、「助ける」・「手を貸す」という字義。同じような意味の語が重なり合うことで、「援助する」という意味を強めているわけです。
一方2の意味が派生したのは、戦国時代以前のこと。「扶持」のもつ「援助する」という意味から、家臣に給与する米を「扶持」と呼んだのがきっかけです。
この頃はまだ法制化はされていませんでしたが、江戸時代になると、臣下や奉公人を召し抱える代償として米を支給するよう正式に定められました。
江戸時代における「扶持」
江戸時代、幕府により制度として定められた、武士や奉公人に支給する米のことを「扶持米」と呼びます。
江戸幕府では、武士1人につき1日の標準的な生計を立てるのに必要な費用を米5合と考えて、正式に扶持米の量を決めました。
たとえば、月にかかる費用が1斗5升、年間で1石8斗とします。これを俵に換算すると、年間米を5俵支給することになります。
このように定められた数量は、武士1人に対して支給することから一人扶持(いちにんぶち)と呼ばれ、支給の基準とされました。それぞれの藩に仕えている武士や奉公人は、基準となる一人扶持と藩の制度に照らし合わせて、毎月支給する米の量が決められたということです。
「食い扶持」の語源
「扶持」「扶持米」は、武士や奉公人が食べていく、つまり生活していくのに必要な収入です。現代で言うところのお給料ですね。
このことから、食費や日々の暮らしに必要なお金を「食う+扶持=食い扶持」というようになったのです。
「食い扶持」の類語
「食い扶持」の類語について、「食べ物を買うための費用」と「生活にかかる費用」の2つの意味に分けて紹介します。
「食べ物を買うための費用」の意味での類語
【類語 例】
- 食費(読み:しょくひ)…生活していくための費用の中で、食べ物にかかるお金。
- 食い代(読み:くいしろ)…食べ物を購入する費用。または、食事代のこと。
【例文】
- 家計簿の支出の項目の中で、食費が大幅にかさんでいる。
- 食べ盛りの子供が多く、食い代がかさんで辛い。
「生活にかかる費用」という意味での類語
【類語 例】
- 生活費(読み:せいかつひ)…生活をしていくのに必要なお金・暮らしで必要とする費用。
- 米塩の資(読み:べいえんのし)…生計を立てていくのに必要な資金。「米塩」で塩と米は日本人の暮らしに欠くことができない程の食べ物や調味料であることから、「生活必需品」という意味合いで使われる。
【使用例】
- 子供の教育費がのしかかり、生活費が足りない状態だ。
- 両親から米塩の資を借りて、急場をしのいだ。