「下賜」とは
「下賜」の意味
「下賜」は「かし」と読み、身分の高い人から、身分の下の者に何かを与えることを意味する言葉です。与えられるのは金品に限らず、領地や身分、称号であることもあります。
「下賜」の動作主体
「下賜」は「下(くだ)す」と「賜(たまわ)る」から成る言葉です。「賜る(たまわ)る」が持つ二つの意味、「目下の者が目上の人から貰う」と「目上の者が目下の者に与える」では、動作の主体が異なります。
一方、「下(くだ)す」は、上から下への移動を表しますから、「下賜」というときの「賜る」は後者の意味、動作主体は「目上の者」であることがわかるでしょう。ですから「下賜」の動作の主体は「目上の者」なのです。
「下賜」の使い方
「下賜」という言葉は、「下賜する」と動詞化して用いられます。
- 大師号を時の天皇から下賜された。
- 皇帝は、妃の一人を功労者である武官に下賜された。
- 当公園は、幕府より下賜された土地を花畑として整備したことに由来しています。
多くの場合は、「下賜される[た]」という受動態を取ります。次の項目で説明する通り、「下賜する」の主語になり得る人はわずかだからです。
「下賜」できる身分とは?
「下賜」するのは目上の者とはいえ、例えば年上と年下、教師と生徒のような間柄でのやり取りには「下賜」は使えません。「主君」に相当する階級が「下賜」できる立場なのです。
「主君」と呼べる階級の人は時代によって異なりますので、以下に例を挙げます。
天皇・皇族
近代貴族制度もなくなった現在の日本では、「下賜」という言葉は天皇・皇族により何かが与えられる場合のみに使われます。動作主体が天皇・皇族であるため、「御下賜(ごかし)」という尊敬語が用いられるのが通常です。
- 郷土博物館には明治天皇から御下賜の懐中時計が展示されている。
- 皇室の慶事の折に下賜されるボンボニエール(菓子器)は、意匠を凝らして作られている。
- 宮内庁から天皇誕生日御下賜金について通達があった。
武家の棟梁
明治維新前、つまり近代貴族制度成立前の時代には、将軍や殿様のような武家の棟梁も「下賜する」の主語となっていました。
- 我が家の家宝は殿様下賜の茶杓だ。
- 将軍から旗本に下賜された自筆書画が行方不明だ。
「下賜」の類語
「下賜」と同様に「身分が上の者から下の者へものを与える」意の言葉は種々あります。動作の主体が誰か、与えた金品自体を指すことができるかどうかの二点に着目しながら説明しましょう。
「恩賜」
「恩賜(おんし)」とは天皇や主君からものを贈ること、またその贈られた品という意味です。「下賜」が贈る行為を示すのに対し、「恩賜」は「贈られた品」を示すことができます。以下のように「下賜」と「恩賜」がひとつの文に共存していても重複表現にはなりません。
- 御料地が公に下賜され、整備された公園を恩賜公園と呼ぶ。
- 「恩賜林御下賜百周年記念」のイベントが催行された。
二番目の文を解説すると、動作部分と贈られた品が「下賜」と「恩賜」で使い分けられています。つまり、「恩賜林(贈られた林)」を「御下賜されて(贈られて)」から百周年の記念という意味です。
「恵賜」
「恵賜(けいし)」は目上の者から目下の者に金品を与えること、及びその与えられた金品を指します。上でご紹介した「恩賜」と似ていますが、与える行為の動作主体は天皇や主君に限りません。
- このお寺のご本尊は、宗派の総本山から恵賜された阿弥陀如来像だ。
「授与」
「授与」は目上の者から目下の者に金品を与えることを表します。上の二つの類語と違い、与えられた金品自体の意味はありません。また、与える行為の動作主体は天皇や主君に限りません。これまで見てきた言葉の中では最も汎用性が高いと言えましょう。
- 勲章が授与された。
- 卒業式では卒業証書を授与する。
「下賜」を英語で言うと?
日本では「下賜」のような、天皇・皇族に関わる特殊な用語があることが分かりました。では、王室を擁するイギリスの言葉である英語では、同様の表現があるのでしょうか?
「下賜する」場合に用いられる動詞に"grant"がありますが、「承諾する」や「譲渡する」いう意味の一般的な動詞でもあります。イギリスには、「下賜する」に相当する王室に特化した単語は無いようです。
- grant「下賜する」
- imperial gift「恩賜」
「下賜」のまとめ
「下賜」できる「主君」に相当するのは、現在では天皇及び皇族のみですので、動作主体を間違えることはないでしょう。ただし、「恩賜」などのように「贈られた品」自体を表すことはできませんから、使い方には要注意です。