「外連」とは?意味や使い方をご紹介

「外連」と書いて「けれん」と読みます。舞台用語から広まった言葉です。辞書を引くと「はったり」「ごまかし」といった印象の良くない意味も載っていますが、さて、「外連」とはどのような状況で使われる言葉なのでしょうか? ここでは「外連」のあれこれについて解説します。

目次

  1. 「外連」の由来、言葉の意味①
  2. 「外連」の意味②
  3. 「外連」の有無~小説の作例
  4. 「外連」の効用

「外連」の由来、言葉の意味①

「外連」という言葉の持つ元々の意味は、人形浄瑠璃や歌舞伎において、娯楽性を高めるために用いられた各種の演出のことです。代表例としてよく挙げられるのが、歌舞伎の早替わりや宙乗り、あるいは舞台装置を利用したトリッキーな仕掛けです。

つまり「外連」とは大いに娯楽的であり、時に現実離れのした演出といってよいでしょう。人目を惹いたり、観客を驚嘆させ、愉しませることに主眼が置かれているのです。歌舞伎の「外連」は江戸時代に持て囃されました。ところが明治期に入ると次第にリアリズムや芸術性を重視する傾向が強くなり、「外連」は衰退していったという歴史があるようです。

「外連」の意味②

前述の意味を踏まえて、やがて「外連」という言葉は、「はったり」「ごまかし」という新たな意味も併せ持つこととなりました。実際よりも誇張した言葉や態度で、相手より優位に立とうとするときの、あの「はったり」です。また、「はったり」には往々にして脚色が付き物ですから、そこに「ごまかす」という意味も加わったのは、うなずけるところではないでしょうか。

なお、このはったりを利かせた表現や、そこから受ける印象のことを指して、「外連味(けれんみ)」といいます。「味」は、「真実味」「有難味(ありがたみ)」と同様、ある物事から受ける「感じ」や「雰囲気」を表します。

「外連味たっぷり」とか「外連味がない」など、多くの場合、何かしらの「作品」を評する際に用いられる言葉です。そこには本来の意味が持っていた「演出」というニュアンスも生かされています。

「外連」があるのは悪いこと?

例えばある作品に対して、「いくら外連を利かせたって中身は空っぽじゃないか」と評した人がいるとします。この場合、話し手が「外連」をネガティブな意味合いで使っていることはおわかりでしょう。作品の薄っぺらい内容を隠すために外連でごまかしていると批判しているわけです。

しかし、「外連」は必ずしも悪い意味で用いられるものではありません。結局のところそれは、いかに伝えるか、いかに表現するかの「演出」の違いですから、外連味があるか否かは個々の好きずきということになります。例として、著名な小説作品から、「外連」を利かせた典型的な文章と、反対に「外連」のない文章を掲げます。

「外連」の有無~小説の作例

 そのときどうっと、海から吹きつけて来る暗い風が、千光寺をとりまく森をざわざわと鳴らした。どこかで絹を裂くような、けたたましい鳥の声が、暗闇の恐ろしさをつんざいた。そのとたん、さかさに吊るされた花子のからだがゆさゆさ揺れて、がっくり解けた黒髪のさきが、からす蛇のように地をのたくった。

横溝正史『獄門島』
 
 私の書いた手紙は可なり長いものであった。母も私も今度こそ先生から何か云って来るだろうと考えていた。すると手紙を出して二日目にまた電報が私宛で届いた。それには来ないでもよろしいという文句だけしかなかった。私はそれを母に見せた。

夏目漱石『こころ』


 いかがでしょうか。いうまでもなく、上が外連味たっぷりの文体で、下が外連味のない文体です。読者をわくわくさせようと、これでもかと芝居がかった表現で迫る『獄門島』と、大袈裟な修飾を排した、簡潔な独白調の『こころ』。日本の推理小説の最高峰とも謳われる作品と、大文豪の代表作。ともに劣らぬ名篇ですが、受ける印象は大きく異なり、双方に良さがあります。

「外連」の効用

いま一度、歌舞伎の話に戻ります。三代目市川猿之助がスーパー歌舞伎と銘打った公演を最初に手がけたのは1986年のことでした。本記事の初めのほうに書いたとおり、明治以降自重傾向にあった「外連」を再評価し、江戸時代の歌舞伎の娯楽性、大衆性を現代流に昇華させようとしたのがスーパー歌舞伎だったといいます。

こうして見てきたとおり、いうなれば「外連」とは、少々リアリティには欠けるもののインパクト絶大で、エンターテインメント性が高い作品に対して使われる表現といってよさそうです。

もちろん「外連」は舞台や小説の感想だけに用いられる言葉ではありません。その他、音楽や映画や絵画、デザイン、あるいは日常的な会話の進め方に至るまで……そこに修飾や演出を加える余地のあるかぎり、表現のすべてに応用する機会があるのが「外連」なのです。

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