「イキってる」とは
「イキってる」とは、この言葉の発祥の地である関西風に言うと、「調子に乗ってる奴のことや」となりますが、使う人の思いによって、ポジティブにもネガティブにも変化します。
もともとは、神戸や大阪を中心とした関西圏でお馴染みの言葉でしたが、SNSやその他のメディアを通じて全国に広がりました。
ポジティブな「イキってる」の意味
この言葉と関わりの深い関西では、「目を見張るできごと」や「いつもより輝いて見える人」に対しても、好意的な思いを込めて「イキってる」と口にします。
いい意味で調子に乗っている様子、「勢いづいている」「活気がある」「気合が入っている」「意気込む」くらいのニュアンスでしょうか。
〈用例〉
- クラスの中でも目立たない存在の田中、合唱コンクールではソロパートでえらくイキってたね。
- モテない、モテないと嘆いてた悟志、昨日駅前でえらくかわいい子とイキった顔で歩いてたよ。
ネガティブな「イキってる」の意味
いま、全国に広がって意味が共有されている「イキってる」は、そのほとんどが相手を攻撃する言葉として使われています。
「気取っている」「大きな顔をしている」「格好をつけている」など、相手の態度に対してのネガティブな評価を表現する言葉です。
「ツッパってる」「デカいツラしている」「エラぶっている」などと共通するこの言葉は、不良少年や大人同士のもめごとの発火点として使われます。態度もふくめ、さまざまな意味で自分の神経を逆なでする存在、それがネガティブな意味での「イキってる奴」です。
〈用例〉
- 雄二のやつ、山田先輩に気に入られてるからってイキった態度取りやがって。
- よそ者がこの町でイキった顔で歩いてるんじゃねえよ。
大阪弁としての「イキってる」
「調子に乗ってる奴」と、一面的に扱われがちな「イキってる」ですが、実はそうではありません。
人情の町、大阪の「イキってる」は、ボルテージの高い「動体」、すなわち「勢いのいいもの」「動きの活発なもの「勢いの増したもの」すべてを指して幅広く使われます。
そこには、昆虫・植物・小動物・鳥・獣などがいます。さらに、自動車や飛行機などの動力機械があり、気体・液体の自然物、むろん人間にいたるまで、可視可能な対象すべてが含まれます。
使い方
- あそこの路地なぁ、イキった目ぇの蜂がぎょうさんいるでぇ
- かなわんわ。除草剤撒いてすぐに雑草がイキって生えてくるんやで
- カラスはいま、子育て中や。そばへ行ったらアカン、イキってるでぇ
- 自然の力がイキってる時てなぁ、人間には手も足も出まへん
- 戦闘ヘリが仰山飛んで行きよったで。ありゃ、ほんまイキっとった
- イキったアンちゃんの車がマフラー轟かせて走っとった
「イキってる」類義語
「すかす」
「すかす」とは、「イキってる」の意味の一部に相当する「すましこんで気取ること」を指して使われます。
また、「すまし顔」などと言うように、「格好をつけてお高くとまっている様子」も含まれます。この言葉の類義語に相当するのが「粋がる」です。
【使い方】
- さっきから見ているとずい分すかしているけど、アンタ大した顔じゃないよ
ちょける
「ちょける」は、主に関西・播磨・飛騨の各地方で使われている方言です。「イキってる」同様、その言葉では「はしゃぎ立てている様子」や「おどける様子」を表します。
いわゆる「お調子者」のことで、多くは「イキってる」よりも年少者の軽々しさを指して使われます。
【使い方】
- おまえ、ガッコではちょけてばっかしやと、センセ言うとったぞ(おまえ、学校ではふざけてばっかりいるって、先生が言ってたぞ)
「いちびる」
「いちびる」は主に、大阪以西で「つけ上げって図に乗る態度」や「調子に乗って振る舞っている様子」を表す言葉です。
「われ、いちびんなや」と一喝する第一声からは、何やら不穏な展開が予想される、そんな響きを持った言葉です。
【使い方】
- いちびってんと、しゃんとせな、お母ちゃん怒るで(ふざけていないで、ちゃんとしなさい、お母さん怒りますよ)
「イキってる」まとめ
使い方によって印象が異なる言葉、それが「イキってる」です。関西圏で使われるポジティブな「イキってる」はともかく、いま全国に拡散している「イキってる」は、多くがネガティブな感情を伴って使われています。
相手に対してネガティブな感情を持ってしまうのは、誰にでもあることです。しかし、それを人前ではっきりと口にすると、不要なトラブルの元になりかねません。
「口は禍の元」というように、悪口は諍い(いさかい)の発火点になります。「イキってあんなこと言わなきゃよかった」ということにならないように、言葉選びひとつにも日頃から注意を払いたいものですね。