「韋駄天」の意味
「韋駄天」は仏教の守護神の一柱です。非常に足が速いという伝説から、足の速い人のたとえにも使われます。
「韋駄天」の使い方
韋駄天は足の速い人や、早く移動する様子に使われます。例えば、ほとんど曲がらずに非常に速い速度で移動する台風を、韋駄天台風(いだてんたいふう)と呼びます。また、非常に速く走ることは韋駄天走りとも呼ばれます。
用例
太宰治『走れメロス』
古川柳
太宰治の『走れメロス』では、「韋駄天」が主人公メロスの移動速度を表す言葉として用いられています。
続く古川柳は『誹風柳多留(はいふうやなぎだる)』という、幕末頃まで刊行されていた川柳の句集に掲載されていた一句で、足の速い神様として「韋駄天」が用いられています。
ちなみに韋駄天と並べられているのは、いずれも早いもの(はりま鍋は熱の伝わりが早い)の代表例です。
「韋駄天」とはどんな神様?
由来
「韋駄天」の元になったのはヒンドゥー教の神、スカンダ(Skanda)です。クジャクに乗った神々の軍の指揮官で、顔が6つあります。
スカンダは漢字で塞建陀天、あるいは略して建陀天と表記されます。これが書き間違いで違駄天になったと考えられています。
役割
韋駄天の役割は修行者の助けになることです。悪魔に悩まされているものを救いにやってくる善神です。また寺院の守り神でもあり、盗難や火災から逃れるご利益があるとも言われています。
韋駄天にはもう一つ、お釈迦様や修行者のために食べ物を集めてくるという役目もあります。食べ物を手に入れるため、とても早く走ってあちこちを訪れる。
そうして韋駄天が走って集めて入れたものだから、食べ物のことを「ご馳走」と呼ぶようになり、「ごちそうさま」の由来にもなったと伝えられています。この逸話から、食べ物に不自由しないというご利益もあるそうです。
俗説
速く走る人のことを韋駄天と呼びますが、この由来は韋駄天に関する俗説にあります。
お釈迦様が亡くなった後、その遺骨の仏舎利(ぶっしゃり)を供養するために帝釈天という神様が塔を建てようとしました。その時、悪い鬼がお釈迦様の歯を盗んで逃げてしまいました。ここまでは『涅槃経(ねはんきょう)』という経典に書かれた話です。
俗説では、その時盗まれた歯を取り返したのが韋駄天であるといいます。鬼を追いかけて何千、何万キロメートルも走り続けた末、無事取り返したそうです。これが走るのが速い人を韋駄天と呼ぶようになった由来です。
その他の神速の神
摩利支天
摩利支天(まりしてん)は太陽の光のように人々を守る仏教の神様です。太陽の光から生まれた神なので実体を持たず、傷つくこともないと武士から好まれて広く信仰されました。
夜明け前の暁の空の象徴で、暁の時間のように素早く走り去る俊足の持ち主です。あまりにも早く駆け抜けるのでイノシシに乗っているものと考えられています。
ヘルメス
ギリシア神話に出てくる伝令の神ヘルメスも神速の神です。空も飛べるサンダルを履き、各地を飛び回って伝令を伝えるといわれています。また、交通や情報もつかさどる神なので、交通や情報の速さとも関連しているという説もあります。
アレス
同じくギリシア神話に登場する争いの神アレスも足が速い神です。ただ、アレス自身がギリシア神話であまり活躍していないので、その足の速さも目立ってはいません。
ヘパイストスという足の不自由な神に捕まった時には、最も足の速い神が最も足の遅い神に捕まった、などと言われています。
NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』
2019年1月からNHKで放送されている大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』ではタイトルに韋駄天が使われています。
東京オリンピック開催までの半世紀を描いたドラマで、作中では「日本のマラソンの父」と評された金栗四三(かなくりしそう)が韋駄天と呼ばれています。