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「庇を貸して母屋を取られる」の意味
「庇を貸して母屋を取られる」は、あまり重要ではないある一部分を貸したために、やがてすべてを取られてしまう、という意味です。また、恩を仇で返される例えとしても使われます。「軒を貸して母屋を取られる」とも言います。
「庇(ひさし)」とは
「庇」とは、日光や雨などを防ぐための、片側だけ傾斜している小さな屋根を言います。建物の外壁から差し出した、窓や出入口など開口部の上にある部分です。「廂」と表記されることもあります。
「軒(のき)」とは
「軒」とは、建物の屋根で外壁から外に張り出した部分を言います。通常は建物の外周に沿ってぐるりと連続した形になります。軒も、激しい雨風や強い日差しから外壁などを守る役割を果たします。
「母屋(おもや)」とは
「母屋」とは、敷地内の建物の中で、生活の中心となる主な建物です。離れ、納屋などに対する言葉です。「母家」と書かれることもあります。
つまり「庇を貸して母屋を取られる」は、建物の庇や軒の下などほんのちょっとしたスペースを貸しただけだったのに、いつしか生活の中心としているスペースまで乗っ取られた、ということです。
「庇を貸して母屋を取られる」の例文と使い方
- 一晩だけ泊めてほしい、と言われてOKしたのが間違いだった。そのまま居座り続け、今では我が物顔で家中の物を使う日々だ。庇を貸して母屋を取られたような気分だよ。
- 居酒屋の店舗、ランチタイムだけあいつに貸すんだって?庇を貸して母屋を取られることにならないよう、甘い顔をしちゃだめだよ。
- 面倒を見てやるのはいいが、あまりいい噂を聞かない奴だ。庇を貸して母屋を取られることのないよう、くれぐれも気をつけた方がいいぞ。
上の2つの例文は、一部分を貸して全部を取られるという意味で、最後の例文は恩を仇で返されるという例えとして使われていますね。
自然界における「庇を貸して母屋を取られる」
『成語大辞苑 故事ことわざ名言名句』には、「軒を貸して母屋を取られる」の項に、自然界における例として「カッコウの托卵」が挙げられています。「托卵(たくらん)」とは、自分で卵や雛の世話をしないで、他の親に育てさせる習性のことです。
カッコウの托卵
カッコウはオオヨシキリやホオジロ、モズなどに托卵します。カッコウは、オオヨシキリが巣を離れるのを待ち、巣内の卵を一個くわえ出します。そして、わずか数秒のうちに自分の卵を一個産んで飛び去るのです。カッコウの卵は他の卵より早くふ化し、カッコウの雛は他の卵を背中で外に落とし、巣立ちまで巣を独占すると言われています。
オオヨシキリの場合は自ら「庇や軒を貸した」というわけではありませんが、母屋=巣を取られてしまうんですね。人間界ではこのように恩を仇で返すことのないように気をつけなければなりませんね。
「庇を貸して母屋を取られる」の類語
「庇を貸して母屋を取られる」は、同じように建物を例えとした類似表現が見られます。
- 借家貸して母屋取られる
- 片屋を貸して母屋を取られる
- 下屋を貸して上屋を取られる
また、建物以外の例えには以下の表現があります。
- 鉈(なた)を貸して山を伐られる
- 飼い犬に手を噛まれる
「庇を貸して母屋を取られる」の英語表現
- A falling master makes a standing servant.(主人が没落しかかると、使用人が代わりに出世をはかる)
- Give him an inch and he takes a mile.(1インチを譲ってやると、1マイルを取られてしまう)
- I gave the mouse a hole and she is become my heir.(ネズミに穴を与えたら、そのネズミが私の跡取りになった)
「庇を貸して母屋を取られる」の諸外国での表現
- 指をやって腕を呑まれる(ネパール)
- 手を差し伸べると、肘にまで飛びつく(サハラ砂漠 フルベ)
- 他人を揺らすためにブランコをつくる(メキシコ)