「以」の読み方と字義
「以」はひらがなの「い」の元となった漢字です。日本語においてこの一字のみで使用することはありませんが、さまざまな漢字と結びついて熟語をなし、広く使用されています。
「以」は音読みが「イ」、訓読みが「もっ(て)」で、以下のような字義があります。
- ~より、~から
- 原因、理由の提示
- ~以て(もって)
以の意味:「~より」「~から」
「以」が時間や範囲や方向を示す字の上に付く場合、基準にした漢字「~より」・「~から」という意味を表します。
「以下」と「未満」の違い
「以下」と「未満」は意味を間違いやすいので注意が必要です。「100以下」となると、基準となる100から下ということなので、100も入ります。
しかし、「100未満」の場合は(基準となった数値に)達していないことを表すので、100は入らずに99までとなります。
以の意味:「~の理由」「~の原因」
「以」には「~の理由」「~の原因により」という意味もあります。例としては「所以」(ゆえん)という熟語があります。「~(する)理由・わけ」を表します。
漢文訓読語の「ゆゑになり」の音が変化をして「ゆゑんなり」になり、「なり」を約めて現代語表記になり「ゆえん」と読まれるようになりました。
- Aさんの人気の所以は、明るさと気立ての良さです。
- Bさんが不世出の作家と呼ばれる所以は、他の作家にない文体や表現の新しさにあります。
以の意味:「~以て」
「以」の3つ目の字義である「~以て」には、以下のような意味があります。
- 手段や方法を表す
- 「思い」「思考」
- 区切りや限界、限度を表す
- 語句を強調する
- 意味を強調する
- 順接の接続詞
手段や方法を表す
手段や方法を表す「以て」は、「~のやり方で」「~を用いて」「~を使って」「~によって」という意味で使われます。
たとえば「以心伝心(いしんでんしん)」は、言葉や文書を交わさなくても、自分の心により、内容が相手の心に通じることという意味の四字熟語です。元々は仏教(禅宗)の教えで、言葉を使わずに師の高僧の教えを弟子に教えることを言っていました。
また、「以毒制毒(いどくせいどく)」は「毒を以て毒を制す」の四字熟語のこと。毒を使って毒を制圧するという所から、悪い人や物を退治するために、同様に悪い物を使ってやっつけるということを表しています。
「思い」「思考」
「以ての外(もってのほか)」というように、「以て」は「思い」や「思考」も表します。「以ての外」は、自分の思いを超えていること、予測不可能なことを表します。思いも寄らぬことから転じて、とんでもないことを指し、相手を非難する時にも使う場合があります。
【例文】
- このような振る舞いは以ての外だ。
- 以ての外の発言でびっくりした。
区切りや限界、限度を表す
「以て」は、動作を行う場合の限度を表すこともあります。日や時間を表す語句を用いて、動作の行われる時の区切りの意味で使う場合もあります。
【例文】
- 市民図書館は午後7時を以て閉館いたします。
- 年内の営業は30日を以て終了いたします。
- 本日を以て閉鎖いたします。
語句を強調する
語句を強調する意味で「以て」が使われることもあります。たとえば「全く以て(まったくもって)」は副詞で「全く」を強調する表し方です。「実に」・「本当に」という意味合いです。
【例文】
- 事実は小説より奇なりというけれど、全く以て不思議なことです。
- 全く以て無礼千万だ。
意味を強調する
「以て」を使って、単に前の語句の意味を強調する働きもあります。
【例文】
- 塾には行かずに、学校の授業で以て大学に合格した。
- 契約社員で以て、正社員を飛び越えて店長に就任を命じられた。
順接の接続詞
「以て」は順接の接続詞のように使うこともできます。「~の上に」、「~に加えて」という意味です。
【例文】
- Aちゃんはお利口さんで以て美人でもあるよね。
- Bくんは素直で以て人気者でもある評判のお子さんです。
また、動詞の連用形について、さらに動詞が続くと「~しながら」という意味になります。
【例文】
- ダンスの指導をするために、踊り以てしゃべる。
- 居留守を使っているのではと、疑い以て探す。