「飛ぶ鳥跡を濁さず」の意味
「飛ぶ鳥跡を濁さず」は、自分が立ち去ったあとが見苦しくないように、きれいにしてから出立しなくてはならない、という意味です。また、引き際が潔く清らかであることの例えとしても使われます。
「飛ぶ鳥」というのは、飛んでいる鳥ではなく、飛び立つ鳥、飛び去る鳥という意味です。水鳥が飛び去ったときの水辺は濁ることなく澄んでいる、ということから、人間も同じように去っていく者は元いた場所をきれいに整えて去るべきだ、ということです。
「飛ぶ鳥跡を濁さず」の例文と使い方
- 10年過ごしたこの部屋とも今日でお別れだ。飛ぶ鳥跡を濁さずと言うから、トイレもお風呂も窓もピカピカに磨こうと思う。
- 来月から念願の外資系への転職が決まったそうですね。飛ぶ鳥跡を濁さずで、残務整理と引継ぎをしっかりお願いします。
- あの先生、身内に地盤を引き継がせずきっぱり政界を引退するって。飛ぶ鳥跡を濁さずだね。
「飛ぶ鳥跡を濁さず」と「立つ鳥跡を濁さず」
「飛ぶ鳥跡を濁さず」には、似た形のことわざ「立つ鳥跡を濁さず」があります。両者の意味や使い方に違いはあるのでしょうか。
安土桃山時代
安土桃山時代のことわざ集『北条氏直時分諺留』(16C末~17C初)には、以下のように記されています。
- 鷺はたちての跡濁さぬ
「飛ぶ鳥跡を濁さず」や「立つ鳥跡を濁さず」だけでは、どんな鳥か分かりにくいですが、こうした一文を見るとイメージしやすくなりますね。また、この文献では「飛ぶ」ではなく「立つ」という動詞が使われていたことが分かります。
江戸時代以降
江戸時代以降のことわざ集も見てみましょう。少しずつ表現が変わっているようです。
- 立つ鳥も後を濁さず(『日葡辞書』1603~04)
- たつとりあとをにごさぬ(『俳諧・毛吹草』1638)
- 立鳥跡をけがさす(『諺草』1699)
- たつとりあとをにごさず(『和漢古諺』1706)
- とぶ鳥もあとをにこさず(『諺苑』1797)
- 飛ぶ鳥も後を濁さず(『日本俚諺大全』1906~1908)
現代の辞書
さらに現代の辞書を見てみると、色々な説があるようです。例えば『広辞苑』の第七版には、「立つ鳥跡を濁さず」の項の中に『「飛ぶ鳥跡を濁さず」とも』と記載されており、両者が同様に使われると解釈できます。
一方『名鏡ことわざ成句使い方辞典』では、「立つ鳥跡を濁さず」の項の中に『「飛ぶ鳥跡を濁さず」とするのは避けたい』と記されています。
以上の背景から、諸説あることを頭において「立つ鳥跡を濁さず」が本来の形であると覚えておき、自分が使用する際は「立つ鳥跡を濁さず」を選んだ方が無難かもしれませんね。
「飛ぶ鳥」が含まれることわざ
「飛ぶ鳥跡を濁さず」のように、「飛ぶ鳥」が含まれている表現は他にもありますのでご紹介します。
【飛ぶ鳥の献立】
飛んでいる鳥を見て、まだ捕まえてもいないのに、焼き鳥にしようか唐揚げにしようかと献立を考えるように、手に入るかどうかもわからないものに期待して、あれこれ計画を立てることを言います。「捕らぬ狸の皮算用」と同様の意味です。
【飛ぶ鳥を落とす】
権力や威勢が非常に盛んなことを言います。「飛ぶ鳥を落とす勢い」という形で使われます。飛んでいる鳥を落とすと言うのは、極めて難しい事です。しかし、そんな飛ぶ鳥を落とすほど勢いが盛んだ、ということです。
【飛ぶ鳥落ちず】
上記の【飛ぶ鳥を落とす】と対立する表現です。飛ぶ鳥を落とすようなことはめったに起きるものではない、つまり世の中には奇跡はなかなか起きないのだ、という意味です。