「僭越」の意味
「僭越」とはせんえつと読みます。「僭越」の「僭(せん)」は「身分不相応におごる」、つまり目上の人の真似をするという意味で、越は「物事の範囲を越える」ことを意味します。そこで僭越とは「身分を越えて出すぎたことをする」や「でしゃばり」などを意味します。
類語には越権(えっけん)、失敬、生意気、厚顔などがあります。
「僭越ながら」の使い方
「僭越」は、一般的に「僭越ながら」と使うことが多いです。「僭越ながら」はビジネス敬語の一つと言われています。「僭越」は身分を越えてでしゃばることなので、「僭越ながら」は身分も地位も低い者が、失礼を承知の上で、出過ぎたことをいたしますなどの意味で使われています。
大勢の前でスピーチをする時や目上の人や上司に自分の意見をいう時など、様々なビジネスシーンで「僭越ながら」は使われています。どのように使うかというと、
「僭越ながら」を自分の行動や考えの前につけて
- 僭越ながら申し上げます。
- 僭越ながらご挨拶をさせていただきます。
などとつけて使用します。
「僭越」の例文
それでは様々なシーンごとに例文をご紹介します。
公の場でのスピーチ
- 僭越ですが、私から発表させていただきます。
- 僭越ではございますが、○○さんの今後のご活躍をご祈念申し上げます。
- (結婚式において)僭越ながら、友人を代表いたしまして、一言ご挨拶を申し上げます。
目上の人との会話にて
- お誘いをいただきましてありがとうございます。僭越ながら参加させていただきます。
- 社長、本日は運転手が不在のため、僭越ながら私がハンドルを握らせていただきます。
上司や目上の人へ意見を言う場合
- 僭越ながら、私にはいくつかの疑問点がございます。
- 僭越ではございますが、私は同意できません。
- 私は○○部署の△△と申します。僭越ながら、いくつか申し上げたいことがございます。
ビジネスメールや手紙で使う場合
- 誠に僭越ではございますが、この度の件はお断りさせていただきます。
- 僭越ながら、書面を持ちましてご挨拶とさせていただきます。
- この度は私の異動に際しまして、温かい激励のお言葉をいただき、誠にありがとうございます。僭越ながら御礼を申し上げます。
文学でみる「僭越」
「僭越」は数々の文学にも登場しています。
太宰治著「女の決闘」より
ここに出てくる私とは、作者である太宰治本人です。作中では私(DAZAI)として登場し、対立する二人の決闘(男と検事)に関して、そのどちらもが「正しい」と読者に対して伝えなければならない心情を「僭越」と表現しています。
森鴎外著「鶏」より
森鴎外が小倉在任時代の体験を元に書いた小説です。鶏についてのエピソードですが、「豊前のことわざに何町歩かの畑を持たないと、鶏を持ってはならない」と隣の家の奥さんが言っている内容で、「僭越も甚だしい」と、「身分もわきまえずに鶏を飼うのは言語道断」という訳で使用されています。
有島武郎著「片信」より
ここに登場する氏とは片山氏のことで、この片山氏の考えに対し、尋ねてみたいがでしゃばってしまうなぁという心情から僭越過ぎることだろうかと自問自答している様子を表現しています。
「僭越」まとめ
「僭越ながら」は、相手の機嫌を伺いながら、自らをへり下って使う言葉です。目下の者や地位が低い者が、目上や身分が高い人に使う言葉です。自分より立場が上の人に使う言葉ですので、目下や同等の相手など、へり下る必要がない場合には使うことがないようにしましょう。