「無事」とは
「無事」には、いくつかの意味があります。
- とりたてて変わったことがないこと。平穏なこと。
- 身の上などに悪いこと(事故や病気など)が起こらないこと。
- 仏教の禅宗でいう寂静無為(じゃくじょうむい=涅槃・安楽)の境地。
日常会話の中で「無事」と使う場合は、ほとんどが1か2の意味だと考えてよいでしょう。また、「無事」の「事」は出来事の中でも「変事」を指しますから、通常は肯定的な意味を込めて「無事」と表現します。
中国の古典「礼記(らいき):王制」には
(天子諸侯は戦乱・戦災など変わったことがなければ、年に三回の狩りをする)
ちなみに、「無事」は訓読すると「ことなし」とも読めます。万葉集には
(これまで平穏無事に生きてきたが、老いてからこのような恋に出会ってしまうとは)
「無事」の使い方
- 初詣では、多くの参拝客が訪れ、一年の無事を祈った。
- 住宅密集地で火災が起こったが、幸い住民たちは無事だった。
- 血のにじむような努力のかいあって、試験に無事合格することができた。
カエルのお守り
カエルをデザインしたお守りは、神社や寺院だけでなく、さまざまなところで手に入れることができるアイテムです。中には語呂合わせで「無事カエル=帰る」という願い(旅行安全・交通安全)が込められたものもあります。
「無事」を含む言い回し
「無事」を含んだ言い回しを2つ紹介します。覚えておくと、役に立つかもしれません。
無事これ貴人
仏教の聖典『臨済録(りんざいろく)』の中に
(無事の人こそが貴い。そのためには、何かを求めてはいけない)
この場合の「無事」とは、「何かを追い求めることなく、平常のままでいること」で、そうした状態にある人こそ貴人であるという意味のようです。
しかし現在では、「大きな災難に見舞われるようなこともなく、無事に過ごせるのはよいことだ」というくらいの意味で使われます。
無事に便りなし
「無沙汰は無事の便り」「便りのないのは良い便り」などいくつかのバリエーションがありますが、意味は同じです。「なんの便りもないということは、平穏無事に暮らしているという、何よりの証拠である」という意味です。
「無事これ貴人」と「無事これ名馬」
「無事これ名馬」は、昭和に活躍した作家でありジャーナリストの菊池寛が広めた言葉です。
菊池は雑誌(「優駿」1941年)のコラムの中で、「競馬の関係者から一筆求められたとき、『無事これ貴人』をもじって、色紙に『無事これ名馬』と書いた」というエピソードを紹介しています。
馬とは具体的に言うと、競馬の競走馬のことを指しています。ですが、「無事これ名馬」という言葉が有名になり、格言化していくにつれ、「特に目立たなくても、長年健康で働くのは、非常に価値あることだ」といった意味に解されるようになりました。
「無事」の類語・対義語
「無事」の類語としては「平安」「平穏」「安穏」「息災」「壮健」や「恙無い(つつがない)」「事なきを得る」などが挙げられます。また、対義語では「有事」「多事」「多難」があります。
「無事」を英語で
- safely:安全に困難を回避することができて「無事」となります。
- peaceful:争いがなく平和であるところから「無事」となります。
- all right:口語的な言い回しで、事なきを得て「無事」だった、という意味で使う事があります。
- in peace and quiet:波風たたず、静かな様子から「無事」につながります。
- without any problem(trouble):何一つ問題・支障はないというところから「無事」に事を終えるという意味になります。