「労る」の表記と読み方
「労る」と書いて「いたわる」と読みます。「労う(ねぎら-う)」という言葉もあり、とても紛らわしく感じてしまいませんか。実は、読み誤ってしまうおそれがある言葉には表記の許容が認められています。
例えば、「行って」と書くと、二通りの読み方ができるのです。一つは「行(い)って」、もう一つは「行(おこな)って」と読むことができます。実際は前後の文脈の関係性からどちらかは判断できるので、読み誤ることは少ないでしょう。
しかしながら、読み手に配慮して、「行なって」と表記されることも珍しくありません。「労る」もこれと同じ理由から、「労わる」と表記されることがあります。このような表記があっても誤りではないので注意してくださいね。
「労る」の現代語における意味
一般的には弱い立場にある人に対して、思いやりの気持ちを示す言葉としての認識が強いように感じます。孫から祖父母への声かけや試合後の選手に声をかけるコーチの姿が思い浮かんでくるようです。辞書には、次のように記されています。
「労る」の古語における意味
現代語には見られない珍しい用例が一つ見られます。意外なことに病気になるという意味で用いられており、次に示す用例の一番目に挙げているのがそれです。他の三つについては、現代における使い方とあまり違いが見られません。
出典:「平家物語」(巻第十・三日平氏)
(現代語訳)ちょうどその頃、病気を患っておりまして、下向しておりません。
出典:「源氏物語」(少女)
(現代語訳)惟光は「典侍の職を補う必要があります」と申し伝えると、「その希望通りに取り計らえ」と源氏もお考えであることを…。
出典:「奥の細道」(大垣)
(現代語訳)蘇った者に会うかのように、一方では無事を悦び、一方では労ってくれる。
出典:「平家物語」(四・競)
(現代語訳)近頃、あまりにも乗り過ぎて疲れさせてしまいましたので、しばらく休養させようと思いまして。
「労る」の文例
「労る」を用いる際の対象は人だけではなく、物であっても大丈夫です。分かりやすいようにいくつか例を挙げますね。
・妻は、長期間にわたって闘病生活を送る夫を労っています。
・受験に失敗して落ち込む子どもを家族はそっと労りました。
・彼は大病を患ってからというもの肝臓を労っています。
・勝敗を決するPKで外してしまった選手を労りました。
・伯父は長距離を走った愛車をいつも労っています。
人に対する用例は、さり気ない優しさを感じさせる表現になっています。これに対して、物に対するそれは、どれだけ慈しんで大切に扱っているかが読み手に訴える表現です。使用する対象によって、若干の意味の違いが生じるところも面白いですね。
「労る」についてのまとめ
読み手が誤読するのを防ぐために「労わる」と表記される場合もあります。このような表記を見かけても、書き誤りではありません。
特徴的なのは、物に対して使用できる点です。その場合は、それを心の底から大切にしているという思いを相手にしっかりと伝えることができます。人に対して使った場合は、弱い立場にある人へ温かい気持ちを伝えるという意味です。ちなみに、古語ににおいては、現代語にはない用例が見られます。