「焼け石に水」の語源と意味
「焼け石に水」の語源
「焼け石に水」ということわざは、焼け石(やけいし)、つまり火で焼いて熱くなった石に水をかける、という行為を表しています。日本では古くから、石を火で熱して温度を高めた状態で、芋類や魚などの調理に使う方法が各地にみられました。
いわゆる「石焼き」という原始的な料理法で、直火と違って保温性があるほか、焦げ付かず火の通りもよいといった利点があるとされます。現代でも熱した小石の中でサツマイモを焼く「石焼き芋」や、朝鮮料理の「石焼きビビンバ」など、その素朴な味わいが好まれる料理があります。
焼いた石は冷めにくいため、多少水をかけても温度が下がることはなく、カセットコンロなどのない昔は野外での料理には熱源として重宝したようです。この様子から、「少し位手を加えても状況は変えられない」ことの比喩表現として、「焼け石に水」という言い方が生まれたとみられます。
「焼け石に水」の意味
このように「焼け石に水」ということわざは、「焼けた石に多少の水をかけても、すぐに蒸発してしまい、何も変わらない」という様子から、「努力や援助が少なすぎて、何の役にも立たず、状況を改善することはできない」といったことへの比喩に用いられる表現です。
「わずかな対策や小出しのやり方では、効果がほとんど期待できない」という意味を示し、逆を言えば「状況を良くするには抜本的、大規模なやり方が必要だ」という趣旨を裏返して述べているともいえます。
「焼け石に水」の使い方
「焼け石に水」は「わずかな努力や対策では、まったく効果がない」といった状況を言い表す慣用句です。つまり「やり方や方向性自体はそれでいいのだが、その程度の量や勢いでは、期待する効果は得られない」といったニュアンスを持ちます。
このため「もともと効き目がない」「この薬は効かない」「戦術が通用しない」といった場合に用いるのは誤用となります。一見微妙な違いではありますが、「そもそも、そのやり方は効き目がなく、間違っている」という場合には使うのは適切でない、ということです。例えば「インフルエンザにかかったら、いくら風邪薬を飲んでも焼け石に水だよ」といった表現は間違いとなります。
「焼け石に水」の例文
- これほどの豪雨だと、土嚢をいくつか積んでも焼け石に水だ。別の対策を考えねば。
- 今日も40度近い猛暑らしい。打ち水程度ではまさに「焼け石に水」。外出は控えるべきだ。
- 留学資金が足りないのは分かるが、今頃からアルバイトをしても焼け石に水だろう。融資をお願いするしかないんじゃないか。
「焼け石に水」の類語
- 二階から目薬…二階から一階の人に向けて目薬をさすこと。あまりに離れていて、目にうまく命中するはずがないことから、「思い通りいかずもどかしい」「回りくどい」さまを表す。
- 遠火で手をあぶる…遠く離れた火で冷たい手やぬれた手を乾かすこと。離れすぎていてたいした効果がないことの例え。
- 九牛の一毛(きゅうぎゅうのいちもう)…中国故事の「多くの牛の1本の毛」から由来し、多数の中の取るに足らない一部を示す。
- 徒労に終わる…無駄な努力、無益な骨折りに終始すること。
- 詮無(せんな)いこと…何かをしても報いられないこと。やりがいがないこと。
「焼け石に水」の英語表現
- a drop in the bucket (バケツの中の水一滴)
- What is a pound of butter among a kennel of hounds? (たくさんの猟犬の中にたった1ポンドのバターで何の足しになる?)
「焼け石に水」のまとめ
「焼け石に水」というと身もふたもない言い方になってしまいますが、人生では、どう考えても「無駄なあがき」であろうと、やらねばならない、やらずにはいられないという場面もあります。最後まであきらめず、さまざまな努力を尽くすことも、一面では、大事なことかもしれませんね。それが他人の心を動かし、局面が大きく動くケースも皆無とはいえません。