「たたらを踏む」とは
「たたらを踏む」とは勢いよく踏み出したけれど、的が外れて数歩あるいてしまうことです。勢いあまって踏みとどまれなったために、よろよろと何歩かもたついている様子ですね。
サスペンスもののドラマには、鍵のかかったドアをこじ開けるために刑事さんが体当たりするシーンがあったりします。ぶつかる寸前でドアが開くと、勢い余った刑事さんは踏みとどまれずに足踏みしてしまうでしょう。この様子が、「たたらを踏む」です。
「たたらを踏む」の使い方
- 姪が駆け寄ってきたので身をかわすと、電柱にぶつかりそうになりながらたたらを踏んで留まった。
- 勢いよく飛び出したはいいが、そこにいるはずのない人物を見て思わずたたらを踏んだ。
- 突然激しい揺れに襲われたたらを踏んだが、こらえきれずに尻もちをついた。
「たたらを踏む」の由来
たたらとは
「たたらを踏む」の「たたら」とは足で踏むタイプの大型の「ふいご」です。漢字で書くと、「たたら」は「踏鞴」、「ふいご」は「鞴」。名が体を表していますね。
「ふいご」とは火の勢いを調整するために風を送る道具です。焼き鳥やバーベキューでのうちわ、ガスバーナーなら空気調節ねじにあたります。酸素の量を加減することで、温度を変えることができます。
多くは金属加工の鍛冶職人が使うものを指しますが、皆さんにとって最もなじみがあるのはジブリ映画の『もののけ姫』でしょう。作中には「たたら場」という場所が登場します。
「たたらを踏む」と類語
空足を踏む
「たたらを踏む」と同じ動作は「空足(からあし)を踏む」とも言います。ただ、「空足」の方が用途が広く、様々な意味で使われます。
たとえば、階段で足を踏み外すことです。上り下りしている時に、もう一段あるはずと思っていたら実際はなかった。あるいは、段の高さが想定外だった。結果として踏みそこなうことも「空足を踏む」といいます。
また、「無駄足」や「はだし」の意味でも使われます。「無駄足を踏む」とは出かけた「かい」がなかったこと。「はだし」は足になにも身に着けていないことですね。
勇み足
「勇み足を踏む」とは調子付いてやったけれど、やりすぎたり仕損じたりすることです。元々は相撲用語で、相手を土俵際まで追い詰めたにもかかわらず、勢い余って相手よりも先に土俵外足をついてしまうことを指します。
「たたらを踏む」と似ていますが、「勇み足を踏む」は比喩的に使われる言葉です。血気にはやって先走った、調子に乗ってしくじったという意味です。
「たたら」以外を「踏む」
地団太を踏む
「地団太(じだんだ)を踏む」とは足で地面を何度も踏みつけることです。非常に激しい足踏みのことですね。また、手足をばたつかせるくらい悔しがるという意味でも使われます。
さて、この「地団太」ですが、「たたら」が由来になっているのではないかという説があります。足で踏むふいごを「地たたら」と呼び、それが「じだんだ」に転じたとのこと。
たしかに足踏みという動作だけなら似ていますね。とはいえ、勢いを殺し損ねた「たたらを踏む」と悔しさをこらえきれない「地団太」では意味はまるで変ってしまします。間違えないようにしたいものですね。
轍を踏む
「轍(てつ)を踏む」とは以前にも誰かが犯した失敗を繰り返すことです。自分が犯した失敗ではなく、別人がすでにした失敗を今度は自分がする、という意味です。よく「前任者と同じ轍を踏ことのないように」と戒めるために使われます。
なお「轍」は「わだち」とも読みます。車で通った後に残る車輪の跡です。雪国や砂漠でよく見られます。「わだち」と読む場合は失敗に限らず、先人がすでに通った道という意味の比喩としても使われます。