「屈託のない意見」は誤り
ビジネスの場などにおいて「遠慮のない意見を聞かせてください」というときに、「屈託のない意見」というのは誤用です。正しくは「忌憚のない意見」という言葉を使います。
なんとなく間違ったまま使っている人もいるかもしれませんが、この機会にきちんと覚えておきましょう。
「屈託」と「忌憚」
「屈託」の意味
「屈託」(くったく)とは、「ひとつのことが気になって手がつかないこと」または、「疲れて飽きること」という意味です。つまり、くよくよしたり、疲れてあきあきするさまということですね。
「屈託」は、「彼女は屈託のない笑みを浮かべた」のように、「屈託ない」という否定形でよく用いられます。「屈託ない」とは、「心に気がかりがなく晴れ晴れとしているさま」または、「くよくよしないさま」という意味です。
「忌憚」の意味
「忌憚」(きたん)とは、「いみはばかること」または、「遠慮すること」という意味です。多くは、「忌憚のない評価に思わず苦笑した」のように、「忌憚ない」という否定形で用いられます。「忌憚ない」とは、「遠慮しない」ことです。
「屈託のない意見」が間違っている理由
「屈託」も「忌憚」も、おもに否定形で用いられるために間違えやすいのでしょうか。しかし、「屈託のない意見」という言葉はありません。仮にあったとしても「くよくよしない意見」といった意味になってしまい、「遠慮の無い意見」を表すことができません。
「遠慮のない意見」を言い換えるには、「忌憚のない意見」という言い回しが適切であることが分かるでしょう。
「忌憚のない意見」の意味・使い方
「忌憚のない意見」とは、「失礼にあたることを辞さないような遠慮のない意見」または、「率直な意見」という意味です。相手に対して遠慮せず思ったままのことズバズバというイメージですね。
「忌憚のない意見」は、たとえば、会議などで参加者から広く意見を募るような時に使われます。意見を聞く側は、耳の痛いことは覚悟のうえで、「受け止める」や「拝聴する」という謙虚な心構えが必要です。
[例文]
- 会社の経営方針の説明が終了し、社員は忌憚のない意見を求められた。
- 新製品が発売されて1カ月が過ぎた。お客様からの忌憚のない意見や要望を聞かねばならない。
- あなたの忌憚のない意見がこのプロジェクトを成功させるために役に立った。
- 会議においては、忌憚のない意見を出してもらうような雰囲気作りが必要だ。
「忌憚のない意見」の類語
「腹蔵のない意見」
「腹蔵(ふくぞう)のない意見」とは、「心に思っていることをつつみ隠さない意見」という意味です。「忌憚のない意見」よりも少しマイルドなことを言ってもらうように期待した表現といえるでしょう。
[例文]
- 社長は穏やかな様子で社員から腹蔵のない意見を求めた。
- 彼はその場の雰囲気を和ませながら、皆から腹蔵のない意見を聞くつもりでいた。
「腹を割った意見」
「腹を割った意見」とは、「本音をさらけ出した正直な意見」という意味です。隠すことなくすべてをさらけ出す点は似通っています。しかし、この言葉は感情に訴える場面で使われることが多く、若干ニュアンスが違っています。
[例文]
- 私は腹を割った意見を言ってくれる友人が少ない。
- 彼とは何度も酒を酌み交わし、腹を割った意見を言い合える仲となった。
「胸襟を開いた意見」
「胸襟(きょうきん)を開いた意見」とは、「心の中で思っていることをすっかりと表す意見」という意味です。「胸」と「襟(えり)」を開くことを「心の中」をたとえています。
[例文]
- 今夜はお互いに胸襟を開いた意見を交わすことができた。
- 両国の首脳は胸襟を開いた意見を述べるような雰囲気だった。
「歯に衣着せぬ意見」
「歯に衣(きぬ)着せぬ意見」とは、「加減をしない率直な意見」という意味です。「衣を着せる」は、オブラートに包む、遠回しに表現するといったことの比喩です。そのため、「歯に衣着せぬ」は、ずけずけものを言うことを表しています。
[例文]
- 今日の会議では歯に衣着せぬ意見を出し合った。
- 私は歯に衣着せぬ意見を言ってしまったことを後悔している。
「忌憚のない意見」の英語表現
「忌憚のない意見」を英語に訳す場合は、「忌憚」を「正直、誠実」と解釈して、「honest opinion」や「candid opinion」などで表現します。
[例文]
- I need your honest opinion.(忌憚のない意見がほしいのです。)
- I`ll give you my candid opinion.(忌憚のない意見を言わせてもらう。)