「歯に衣着せぬ」とは
「歯に衣着せぬ」(はにきぬきせぬ)とは、「遠慮しないでずけずけ言う」という意味のことわざです。テレビや雑誌などで、芸能人が「歯に衣着せぬ物言いで有名な○○さんです」と紹介されているのを見たことがあるのではないかと思います。
「無遠慮」という意味で、否定的な言葉として捉えられがちですが、実は褒め言葉として使われることも多いのです。「なかなか言いにくいことをキッパリ言ってくれる」と相手をむしろ称賛するような時に、「歯に衣着せぬ」と使うこともあります。
ちなみに「衣」という漢字ですが、読み方が同じなので「絹」と間違われることも多いです。「きぬ」はシルクではなく衣服のことだと覚えておきましょう。
「歯に衣着せぬ」の由来
ところで、「歯に衣着せぬ」はなぜ「遠慮しないでずけずけ物を言う」という意味になるのでしょうか。「歯に衣服を着せる」とそのまま想像すると、よくわからない状態です。しかし、きちんとした由来があります。
まず、「衣着せぬ」というのは比喩表現です。皆さんは「オブラートに包む」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「直接的な表現を避けて遠回しにぼかして言う」という意味です。「衣」を「オブラート」に置き換えて考えるとわかりやすいのではないでしょうか。「衣」とは「直接的な表現を和らげたりぼかしたりすること」を表します。
従って、「衣(遠回しにぼかす)」を「着せぬ(しない)」ということは、「遠慮しないでずけずけ物を言う」という意味になるのです。
「歯に衣着せぬ」の使い方
正しい使い方
「歯に衣着せぬ」についてご解説しましたが、実際にはどのような場面で使われるのでしょうか。ここでは「歯に衣着せぬ」の例文をご紹介します。
- 彼女は歯に衣着せぬ物言いで、恐れられながらも尊敬されている。
- 歯に衣着せぬ言い方をされて落ち込んでしまった。
- いつもは歯に衣着せぬ物言いの彼女が、今日は珍しく遠慮して意見を言わない。
このように、「歯に衣着せぬ」は嫌な思いをした時だけではなく、褒める意味でも使います。その場面によって意味が変わってくるのですね。
誤った使い方
「歯に衣着せぬ」はこのままの形で使います。表現を和らげる時に「歯に衣着せる」と変化させるのは間違いです。その場合は「オブラートに包む」など他の表現を考えましょう。
- (誤)相手が傷ついてしまうから、歯に衣着せて話した方がいい。
- (正)相手が傷ついてしまうから、オブラートに包んで話した方がいい。
「着せる」という表現をするなら、ややこしいですが「奥歯に衣着せる」ということわざもあります。「遠回しで思わせぶりな物言いをする」という意味です。「彼は奥歯に衣着せるような言い方だったので、気を使っていたのだろう」という風に使います。
「歯」を使ったことわざ一覧
「歯に衣着せぬ」についてご説明してきましたが、「歯」がつくことわざは他にもたくさんあります。ここでは日常生活でもよく使われるような「歯」についてのことわざをいくつかご紹介します。
- 歯が立たない
- 歯が浮く
- 歯をくいしばる
「歯に衣着せぬ」のまとめ
「歯に衣着せぬ」についてご紹介してきましたが、いかがでしたか。遠回しにぼかして言うのも、バッサリと意見を言うのも、どちらが良い悪いというのはありません。相手を思いやる気持ちがあるのなら、「奥歯に衣着せる」のも、傷つくかもしれないけれど敢えて「歯に衣着せぬ」のも良いことなのではないでしょうか。