「艱難汝を玉にす」の意味
「艱難汝を玉にす」は、「人は困難や苦労を経験し、それを克服していくことによって人格が磨かれ、立派な人間に成長する」という意味のことわざです。
「艱」は「苦しみや悩み」、「難」は「難事・難儀」です。また、「玉」は「美しい宝石」を意味し、立派なものや美しいものを褒める言葉として使われます。このことわざでは、地中から掘り出された原石が磨かれて美しい宝石となるように、苦労が人を鍛錬し立派にするという例えに使われています。
「艱難汝を玉にす」の使い方
- お客様のリクエストに四苦八苦しているようだね。艱難汝を玉にすと言うから、あきらめずに頑張れ。
- 結婚して35年。姑とは色々あったが、水に流して介護に励もう。艱難汝を玉にすという言葉を信じて。
- 上司と合わないという理由でまた会社を辞めてしまった。艱難汝を玉にすというのに。今度こそはしっかり仕事を続けないといけないな。
一番目の文は、苦労の最中にいる人を励ます言葉として使われています。二番目の文は自分への励ましとして使われていますね。また、三番目の文のように自戒の言葉として使われることも多いことわざです。
「艱難汝を玉にす」の由来
「艱難汝を玉にす」は、”Adversity makes a man wise.”(逆境は人を賢明にする)という英文の意訳、もしくはフランスのことわざの翻訳とする説が有力です。また、他には中国の禅思想の最高峰を極めた『碧巌録(へきがんろく)』が由来だとする説もあります。
いずれにしても、日本では1800年代後半に使われ始めるようになりました。日本語の文献でいち早く紹介されたものを以下に見てみましょう。
少しずつ言葉や形を変えて、現在の「艱難汝を玉にす」という形で定着したようですね。
「艱難汝を玉にす」の用例
「艱難汝を玉にす」は、明治時代の第一期の国定教科書『尋常小学校修身書』(1904年)の「べんきやう」の見出しで引用されました。その後も第四期まで国定教科書に登場し続け、広く世間に知られるようになりました。
二宮金次郎や渡辺登(崋山)の少年期のエピソードと共に教えられたことで、「人は多くの艱難を経て初めて人格を向上させることができる」という日本独自の受け取り方も生じたと言われています。
また『幼年倶楽部』(12巻1号)の付録には、野口英世が、大雪でみんなが欠席する中、一人8キロも離れた学校に到着し、先生に迎え入れらているエピソードと共に紹介されています。
「艱難汝を玉にす」の類語
- 玉琢かざれば器を成さず(美しい玉でも磨かなければ美しい器物にならないのと同じように、どれほど才能がある人でも、勉学や終業を積み、努力を重ねなければ才能は開花しない)
- 玉磨かざれば光なし(生まれながらに優れた資質や才能を持っていたとしても、学問に励み、修養を積まなければ立派な人間にはなれない)
「艱難汝を玉にす」の英語表現
- No cross, no crown.(十字架を背負わなければ栄冠は得られない)
- The wind in one's face makes one wise.(顔にあたる風は人を賢くする)
- It is the bridle spur that makes a good horse.(馬を駿馬にするのは手綱と拍車である)
まとめ
「艱難汝を玉にす」は明治時代には盛んに使われていた代表的なことわざでしたが、現代では少しなじみの薄いものになってしまったようです。しかし、とても素敵なことわざですから、きちんと意味を理解し使っていきたいですね。