「虻蜂取らず」の意味
「虻蜂取らず」は、二つの事を同時にやってみてもどちらも上手くはいかない、という意味です。虻も蜂もどちらも取ろうとして、結局はどちらもだめになるという例えが使われています。
「虻蜂取らず」には欲張り過ぎたら失敗するよという教えが込められています。何かを成し遂げるにはあれもこれもと目的をたくさん並べて迷うのではなく、一つの目的に精神を集中させなさいという事です。
なお漢字表記としては辞書により「取る」「捕る」のどちらも採用されています。
「虻蜂取らず」の使い方
- あの会社は今年旅行業にも不動産業にも手をひろげるそうだ。虻蜂取らずにならないといいが。
- 受験生なのにバンドも始めたいなんて。虻蜂取らずになるから、今年はやめたほうがいいよ。
- いくつかの資格試験に興味があるが、虻蜂取らずにならないように、一つずつじっくり勉強しようと思っている。
「虻蜂取らず」は夢や目的をたくさん持つなと言っているわけではありません。同時にいくつものことを行なっても集中して気持ちや力を注ぐことなんてできないのだから、欲張らず一つのことに集中しなさいという意味で使われているのです。
「虻蜂取らず」の由来
「虻蜂取らず」の虻と蜂ですが、誰が何のために取ろうとしたのかという由来についてはいくつかの説があります。
クモ説
クモの巣に虻と蜂がひっかかり、一度にどちらにも糸をからめて取ろうとしたが、結局は両方とも逃がしてしまったとする説です。人間は虻を食用としてとることはないため、虻と蜂をとろうとしたのはクモではないかと考えられたようです。
小鳥・カエル説
「虻蜂取らず鷹(たか)の餌食(えじき)」ということわざもあることから、虻と蜂を取ろうとしたのは鷹に狙われる小鳥やカエルだと考える説もあります。欲張って虻も蜂もとれなかっただけでなく、自らが鷹の餌食になるとは悲惨ですね。
人間説
虻や蜂を取るのは人間だとする説ももちろんあります。
ただし「取る」という動詞のとらえ方が少し違います。クモ説や小鳥・カエル説では、手に入れる、捕食する、という意味で「取る」をとらえていますが、人間説では「取る」を打ち取る、やっつけるという意味でとらえています。つまり、人間が虻と蜂を同時に撃退しようとしたけれどできなかった、という解釈です。
ちなみに江戸時代の諺画集や明治時代の風刺雑誌を見ると「虻蜂取らず」の挿絵には人間が描かれています。当時は人間説が有力だったのかもしれません。
「虻蜂取らず」の類語
- 二兎を追う者は一兎をも得ず
- 花も折らず実も取らず
- 一を取らず二も取らず
- 斎にも非時にも外れる
「虻蜂取らず」と同様の意味のことわざは、世界各国で使われています。アフガニスタンには「二つの水瓜は一つの手では持てぬ」、フランスには「誰にでも抱きつく者は抱きしめる力も弱い」という表現があります。お国柄があらわれているようですね。
「虻蜂取らず」の対義語
- 一石二鳥(いっせきにちょう):一つの石で二羽の鳥を殺すことから、一つの事をして二つの利益を手に入れることを言う。
- 一挙両得(いっきょりょうとく):一つの事を行ない、二つの利益を同時に収めること。
「虻蜂取らず」の英語での類似表現
- Between two stools the tail goes to ground.(二つの腰かけの間で尻もちをつく)
- He that hunts two hares loses both.(二兎を追うものは一兎をも得ず)
- Lose not the substance for the shadow.(映像を得ようとして実物を失うな)
最後の一文はイソップ寓話が由来です。犬が水に映った肉を得ようとして、口にくわえていた肉を失ったというお話です。
まとめ
「虻蜂取らず」はかつてはよく使われたことわざですが、後に西欧から入ってきた「二兎を追うものは一兎をも得ず」にとって代わられるようになりました。短くて言いやすいので、是非一緒に覚えて使ってみてくださいね。