「立つ瀬がない」とは?
「立つ瀬がない(たつせがない)」とは、立場や面目(めんぼく、めんもく)を失くして、世間に顔向けができなくなるような苦しい状況に陥ることを言います。
自分が適切でない行動をしたことで立場を失う場合もありますし、自分に近い間柄の人たち(家族や友人、恋人など)が適切でない行動をしたことで自分が立場を失う場合もあります。
「立つ瀬」とは?
「瀬(せ)」とは、川の中で、歩いて渡ることができるくらいの水の少ない場所のことです。「立つ瀬」は川の中でも立っていられる場所というところから、その人の置かれている立場や、世間に対する面目を意味する言葉として使われています。
「立つ瀬がない」と打消しの形で使われるのが一般的です。
「立つ瀬がない」例文
- 隣国との関係改善のためにあれほど大臣が尽力してきたのに、当の大臣の支持団体から反対意見が出てきてしまっては、大臣も立つ瀬がないだろう。
- 友達に頼まれて合コンのセッティングをしたのに、その友達が遅刻してきたうえに相手側にとても失礼な態度を取ってしまって、これでは私の立つ瀬がない。
- 文化祭を盛り上げようといっしょうけんめいに頑張ってきたのに、先生への印象をよくして受験で有利になるようにするためだと言われてしまっては、僕も立つ瀬がない。
「立つ瀬がない」類語
「面子が立たない」
「面子(めんつ)」は中国語に由来する言葉で、体面や面目を表します。「面子が立たない」は面目がない、立場がないという意味。
「立つ瀬がない」は、打消しの形で使われるのが一般的です。「面子」の場合は、顔を立てる、という意味で、「面子を立てる」という言い回しもあります。
「針の筵」
筵(むしろ)とは、藁(わら)やイグサなどを編んで作った敷物のことです。「針の筵(はりのむしろ)」は、その敷物に針を植えてある状態のことから、心の休まることのない辛い境遇のことを表します。「針の筵に座る」のように使われます。
「浮かぶ瀬がない」
「浮かぶ瀬」は、辛い境遇から脱する機会のことです。その「浮かぶ瀬がない」ということは、苦しい状況から抜け出す機会がない、ということです。
「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」は、溺れかけた時、もがいて深みにはまるよりも、捨て身の覚悟で流れに身を任せたほうが浅瀬に戻ることもできるという意味です。このことから、捨て身の覚悟があって初めて危機を脱することができるという教訓として用いられます。
この「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」と「立つ瀬がない」を混同して「身を捨ててこそ立つ瀬もあれ」とするのは誤りです。
「ばつが悪い」
「ばつが悪い」は、きまりが悪い、居心地が悪い、というような意味です。「ばつ」は、「場都合(その場の都合)」の略と考えられているため、「罰が悪い」と書くのは誤りです。
「立つ瀬がない」英語表現
次の文は、すべて「それでは私の立つ瀬がない」を英語で表現したものです。
- That would put me in a tight corner.
- That places me in a dilemma.
- That would leave me in a fix.
1の文の「tight cotner」は、困った状況・窮地を指しています。2の「dilemma」は、ジレンマ・板挟み・苦しい立場という意味。3の「in a fix」は、まずいことになる・苦境に立っていることを表すイディオムです。
どの表現も、「立つ瀬がない」という打ち消しの表現ではなく、「困った状況になる」「苦境に立たされている」のように表現されます。
たつせがある課
愛知県の名古屋市の東側に、羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)と徳川家康が戦った小牧・長久手の戦い(こまき・ながくてのたたかい)で知られる長久手市があります。人口約6万人のこの市の市役所には、「たつせがある課」という部署があります。
「たつせがある」は、「立つ瀬がない」の対義語として市が作った造語として紹介されています。市民一人一人に役割や居場所のある街、「立つ瀬がない」人のいない街を目指し、市の職員と市民が協同して、地域振興や起業支援などの多くの事業を行っています。