「猟奇的」とは
「猟奇的」の意味は、「怪奇・異常なものが好きで、それを熱心に追い求めるような性格を持ったもの」です。多くは(殺人)事件や犯罪などで、驚くほど常軌を逸した行為について「猟奇的」と表現されます。また、性的な欲求と深く関わっているとする分析もあります。日常会話の中では「こんな残虐な手口の連続殺人なんて、まさに猟奇的な犯行だ」といった使い方をします。
そうした「猟奇的」な事件は、ドラマや映画の題材として取り上げられるケースが多く、イメージ的にサイコキラー(ある種の精神障害者による連続殺人)やシリアルキラー(ある程度の間隔をおいて殺人を繰り返す犯人)などとも強く関連付けられます。
韓国では…
2001年、韓国で一大ブームを巻き起こした映画『猟奇的な彼女』はその後、日本にもブームが波及しました。リメイクドラマが制作されるなど、大きく話題となったので、ご記憶の方も多いのではないでしょうか。『猟奇的な彼女』は元々、ネット小説から火がついたラブコメディです。映画では、チョン・ジヒョンさんが「猟奇的」なヒロインを魅力的に演じました。このドラマのヒットにより「猟奇的(엽기:ヨプキ)」は韓国で流行語となったそうです。
ただし、意味的にはだいぶ軽くなって、「いたずらじみた」くらいの意味で使われています。犯罪のイメージは消え去り、もはや褒め言葉と受け取ってもよいほどの意味合いとなっています。このような時流に乗り「ヨプキトッポッキ」という激辛料理のお店まであるそうです。
「猟奇的」をより詳しく
「猟奇的」の「猟奇」をもう少し詳しく解説してみましょう。「猟」は獣のたてがみを表す文字から変化してきました。ですから意味的には、たてがみを立てて原野を疾駆し獲物を追うといった感じだったようです。そこから変化して「狩る」「あさる・探し求める」となりました。「奇」は「珍しい」と同時に「普通ではなく怪しげなさま・不思議な様子」を表します。両者を組み合わせると、「奇=怪しげなさま」を「猟=探し求める」となります。
日本文化の「猟奇的」源流
日本の文化史の中では、1930年代の江戸川乱歩、横溝正史が「猟奇的」な方向性を示したとされています。女装・男装、人形愛、残虐趣味などのモチーフは、すでに現代の「猟奇的」なイメージを先取りしていました。さらに戦後、戦時中の極端に抑圧された状態から、性の解放が一気に噴出し、大衆はより刺激が強いものを求めるようになりました。そうした背景から、乱歩らが示したようなグロテスクな世界観を受け継いだ活字メディア、いわゆるカストリ雑誌が氾濫し「猟奇的」なイメージが世に広まりました。タイトルがそのまま「猟奇」(茜書房・1946年創刊)という雑誌が存在したのも象徴的です。
「猟奇的」の類語
「猟奇的」に類する言葉を挙げると「怪奇的」「おぞましい」「グロテスク」「淫猥な」「ホラー」「ゴシック」「恐怖の」「サド・マゾ」「残虐な」「残酷な」「狂気に満ちた」などがあります。ただ、それぞれに独自の意味があるため、「猟奇的」と完全に置き換えが可能というわけではありません。
「猟奇的」な出来事
古くは阿部定事件(1936年、阿部定が愛人を殺害し、局部を切り取った事件)も後に「猟奇的」と言われるようになりました。ここでは近年の出来事から、2例紹介します。
サウジアラビアのジャーナリスト行方不明事件
2018年10月、サウジアラビアのジャーナリスト・カショギ氏が、イスタンブールのサウジアラビア領事館内で殺害されたことが明らかになりました。当初行方不明とされていたカショギ氏が、実は領事館内で殺害されたこと、遺体がバラバラに切断されて運び出されたことなどをトルコの捜査当局が発表。さらに、殺害者はカショギ氏を尋問中に指を切断した、頭部を切り落とした、生きたまま切断したなどの情報が飛び交い、にわかに「猟奇的」な様相を呈しました。
姉による弟殺害・死体損壊遺棄事件
2016年、千葉県某所で、女性が同居していた実の弟を包丁で殺害。死体をバラバラに切断した上、冷蔵庫に隠し、一部はゴミとして遺棄していました。捜査員が女性の部屋で見たのは、人の肉片が入ったポリ袋、血がついたトイレットペーパーで詰まったトイレ、肉を剥がされ冷蔵された人骨、冷凍された頭蓋骨などだったそうです。