「シミュラクラ現象」とは
「シミュラクラ」の意味
「シミュラクラ」は英語の“simulacra”(単数形:simulacrum)に由来するカタカナ語です。「像」「姿」「影(幻影、面影)」のほか、「にせもの」や「まやかし」といった意味があります。
「シミュラクラ現象」の意味
「シミュラクラ現象」は別名「類像現象」ともいい、人間の認知(脳の)機能の中にもともと備わっている、一種の条件付けのようなものです。その意味するところは「人間は、逆三角形に並んだ点(やその他の記号)を、人の顔として認識してしまう」というもののようです。
心霊写真と「シミュラクラ現象」
「シミュラクラ現象」は、人の脳が本能的にもっている機能によるものとされています。端的に言えば「あるはずのない場所に人の顔を見てしまう」という現象のことなので、いわゆる心霊写真の多くは、この「シミュラクラ現象」によって説明ができる、とする説があります。
注意点
しかしながら、この「シミュラクラ現象」という言葉は、一般的な辞書や百科事典には記載のない言葉となります。インターネットで検索しても、言葉の意味や事例などは出るものの、詳細な定義などは見られませんでした。
このことから考えても「シミュラクラ現象」という言葉は、限られた分野で局所的に使用されていた言葉が最近広まった、もしくは、厳密な定義づけがなされていない言葉である可能性があります。
さらに「シミュラクラ現象」は、意味内容において後述する「パレイドリア(効果)」と重複する部分が多く、両者を一緒くたにして認識していると思われる例も多いので、注意が必要です。
錯覚と「パレイドリア効果」
上記のように「シミュラクラ現象」はいまいち厳密さに欠ける用語ですが、意味内容的にいって「錯覚(錯視)」に含まれるものと考えられます。
錯覚とは
「錯覚」とは、特別な条件下において、対象が通常の場合よりも著しく異なって知覚される現象のことです。だまし絵(トロンプ・ルイユ)のような視覚によるもの(錯視)が一般的ですが、触覚その他の感覚においても発生します。
錯覚は大きく三つに分けられます。「不注意錯覚」は、見落とし、見のがし、見誤りのような、注意散漫が原因で発生する錯覚です。「感動錯覚」は怒り、恐怖、期待、不安などの強い感情によって発生します。そして「パレイドリア」は壁のしみなどに人の顔を見てしまうように、明瞭な意識下でも発生する現象です。
「パレイドリア」とは
「パレイドリア」は精神医学用語であり、一般的な辞書・辞典にも記載の見える言葉です。例えば壁のしみが絵画のように見えたり、満月がウサギやカニ、あるいは人間の顔に見えたりと、対象が実際の姿とはまったく違う姿形に知覚されることを言います。
「パレイドリア」は錯覚の中でも、意識が明瞭、もしくはほとんど障害されていない状態で発生するものを指します。見ているものが本当はなんであるか知っている(批判力がある)にも関わらず、意思とは無関係に知覚され続けるという特徴があります。
「パレイドリア」と精神医学
「パレイドリア」は健常者にも起こりえますが、高熱を出した際や、LSDなどの薬物による酩酊状態によく発生します。また「せん妄」による意識障害に伴うことがあり、精神医学では疾患と見なされることがあります。
さらに「レビー小体型認知症」の患者はパレイドリアが誘発されやすいため、「アルツハイマー型認知症」との鑑別のために「パレイドリアテスト」が行われることがあるようです。
幻覚との違い
「幻覚」は「見たり聴いたりする対象がないにも関わらず発生する知覚」のことを言います。「シミュラクラ現象」は「三つの点(やその他の記号)」といった明確な対象があることから、幻覚ではありません。
「シミュラークル」について
「シミュラークル(simulacre)」はフランスの思想家ジャン・ボードリヤールが提唱した用語です。その意味は「模造」「模擬」「幻影」ですが、語源としてはミュラークルもシミュラクラも同じラテン語の”simulacrum”となります。
「シミュラークル」は大変難しい用語なのでここで詳細な解説を加えることはできません。ただ、ごく単純に言えば、「地図」や「CG」「ディズニーランド」「バーチャルYouTuber」のように、「現実世界」というオリジナルを元にした「模造品」でありながら、にもかかわらず「現実以上に現実に影響を与える」記号のことを言います。
「心霊写真」に騙されるな?
以上、見てきたように「シミュラクラ現象」は点の集まりが顔に見えてしまうという、脳の認知機能に関わる言葉でした。ただ、必ずしも厳密な定義づけがなされているわけではなさそうです。そのような「シミュラクラ現象」によって、心霊写真の多くが説明できると言うのは、少々言い過ぎであるような気もします。
確かに、心霊写真のような超常現象はパレイドリアのような錯覚や、幻覚によって引き起こされることが多いのかもしれません。あるいは無意識の願望によって「見てしまう」ということもあるでしょう。しかし、それはそれで「その人にとっての現実なのだ」とも言えるのではないでしょうか。
あくまでも「信じるか信じないかはあなた次第」という前提にかわりはありません。