「憶える」の意味
「憶える」(おぼ-える)とは、「記憶する」や「心に留めておく」という意味の言葉です。「記憶」の「憶」ですから、まずは「記憶」の意味で覚えましょう。
ただし、「おぼえる」は「覚える」と書くほうが一般的で、「憶える」の字は常用外であり、また辞書によっては載っていない場合もあります。
「憶える」と「覚える」とは、いったい何が違うのでしょうか?
「憶える」と「覚える」の違い
結論から言いますと、「憶える」よりも「覚える」のほうが意味が広く、汎用的に使うことができます。具体的な意味の違いは、以下の通り。(※古語は省略)
- 覚える…自ずとそう感じる、意識する/思い出される/学んで知る、習得する/記憶する
- 憶える…思い出される/記憶する
この通り、「憶える」には、「自ずとそう感じる、意識する」や「学んで知る、習得する」という意味がありません。例えば、「彼に親しみを覚える」や「今日は新しい方程式の使い方を覚えた」という場合、「憶えた」は誤りです。
ただ、厳密なところで言うと、感覚や学習も、「記憶」の範疇に含まれないわけではありません。「彼に親しみを感じたことを(記憶として)憶える」や、「新しい方程式の使い方を(記憶として)憶えた」という表現はOKとされることもあります。
「憶」と「覚」の違い
字の違いについても見ておきましょう。「憶」の字は、「意」(=こころ、おもう、おぼえる)に「心」(りっしんべん)を増し加えて、主に「おぼえる」意として用います。(※諸説あり)
一方、「覚」は、旧字では「覺」と書き、「ものが明らかに見える」→「さとる」の意がもとになっていると考えられています。
つまり、「憶」が「こころ」に由来するのに対し、「覚」は「見える」という「感覚」に由来しています。字義そのものが言葉の意味につながるとは限りませんが、使い分けのひとつの基準となるのではないでしょうか。
「憶える」の使い方
「憶える」は、とても幅広く使える「覚える」の意味からさらに限定して、「記憶の中や、心の中を探るようにして何かを感じる・思い出す」というさまを表して使います。
「覚える」表記のほうが一般的であること、「憶える」の意味は基本的にすべて「覚える」でも代用可能であることから、使い方を迷うようであれば「覚」の字のほうを使っても良いでしょう。
しかし、敢えて「憶える」という字を使うことによって、特に文章表現の世界ではただ「感じる」「思い出す」のではない、自分自身の記憶に含まれる情景・情感をこめたニュアンスを出せるかもしれません。
例文
- 彼と初めて会った日のことは、今でもちゃんと憶えている。(※「覚える」でも可)
- 二十年ぶりに絵筆を握ったが、満足いく絵が描けた。身体が描き方を憶えていたようだ。(※「覚える」でも可)
- 昨日授業で習った化学式を、皆さんきちんと憶えましたか?(※どちらかといえば、習得するという意なので「覚える」のほうが適する)
- 注文した憶えのない商品が届いたので、発送元に連絡を入れる。(※「覚える」でも可)
「憶える」の類語
「憶える」は、「記憶」に準じた使い方が基本ですから、類語としては以下のような言葉を挙げることができます。
- 諳(そら)んじる…暗記する。
- 銘(めい)じる…忘れないように心に刻み付ける。心にある。
- 胸に刻む…忘れないようにする。
- 想起する…前にあったことを思い出す
- 浮かぶ…意識の中にのぼる。
- 顧(かえり)みる…過去のことを思う。
- 回想…昔のことをいろいろと思い出す。