「烏滸」の意味
「烏滸(おこ)」には、次の2つの意味があります。
・馬鹿げていること。滑稽なさま。
・ふとどきな様子。不敵なさま。
もともとは中国の言葉で、黄河や揚子江の港に集まる騒がしい人のことを意味していました。「滸」は水辺やほとりのことを指しており、水辺にいるカラスのようにうるさい人々を「烏滸」と呼んでいたようです。
日本では、はじめ「をこ」「うこ」と平仮名表記されていましたが、平安時代になり「烏滸」「尾籠」「嗚呼」という当て字がされるようになります。この頃の「烏滸」は、愚かや愚鈍の意味と、人を笑わせる行為や非常識な振舞を意味していました。
ここから、物まねや滑稽な仕草の歌舞の芸と、それを演じる人々を「烏滸」と言ったり、面白おかしい話を「烏滸話」、『鳥獣戯画』などの人を笑わせることを目的として書かれた絵を「烏滸絵」と呼ぶようになりました。
室町時代になると、愚鈍なものを表す表現「馬鹿」が使われるようになります。そして、江戸時代には「馬鹿」と言う言葉が広く使われるようになり、次第に「烏滸」は使われなくなってしましました。
「烏滸」の使い方
現在、「烏滸」という言葉を単独で使うことはほぼありません。「烏滸がましい(おこがましい)」、もしくは「烏滸の沙汰(おこのさた)」という表現で使われることがほとんでです。
ここでは「烏滸がましい」「烏滸の沙汰」の意味と、過去の文豪たちがどの様に「烏滸」を使って文章を書いたのか見てみましょう。
「烏滸がましい」
「烏滸がましい」の意味は、二つあります。一つ目は、身の程をわきまえないこと、差し出がましいことです。二つ目の意味は、いかにも馬鹿馬鹿しい、ばかげているという意味です。
「烏滸がましい」に身の程をわきまえないという意味が含まれるようになったのは、近代以降からで、それまでは馬鹿馬鹿しいという意味のみで使われていました。
「烏滸の沙汰」
「烏滸の沙汰」の意味は、ばかげていることや、とても愚かな様子のことです。
「烏滸」の引用
『柵草紙の山房論文』:森鴎外
『涙香・ポー・それから』:夢野久作
『私本太平記 あしかが帖』:吉川英治
『全体主義への吟味』:宮本百合子
※青空文庫出典
「烏」が使われている言葉
「烏滸」の他に「烏」が含まれる表現をご紹介します。
・烏の行水(からすのぎょうずい)
意味:入浴時間が極端に短いことのたとえ
・濡烏(ぬれがらす)
意味:日本人女性の理想の黒髪の色とされる色の名称。「烏の濡れ羽色」ともいう。
・闇夜に烏(やみよにからす)
意味:見分けがつかないことのたとえ。
・三羽烏(さんばがらす)
意味:三人組のこと。
・烏合の衆(うごうのしゅう)
意味:統率の取れていない寄せ集めの集団や軍隊のこと。
・白兎赤烏(はくとせきう)
意味:時間のこと。
・烏飛兎走(うひとそう)
意味:あっという間に時間が過ぎることのたとえ。
・烏白馬角(うはくばかく)
意味:絶対にありえないことのたとえ。
・烏焉魯魚(うえんろぎょ)
意味:文字を書き間違えること。
「烏滸」のまとめ
江戸時代以降あまり使われなくなってしまった「烏滸」という言葉ですが、その意味や使い方をおわかりいただけましたか?現在は「烏滸がましい」や「烏滸の沙汰」という言い回しでのみ使われており、「烏滸」という言葉自体を目にすることはなくなってしまいました。
使用頻度の少ない「烏滸」ですが、知識の一つとして心の肥やしにしていただければ幸いです。