「甘んじる」の意味とは?
「甘んじる」(あま-んじる)は、自分に与えられたことを十分とは言えなくても受け入れること、不本意ではあっても今ある状態で我慢するしかないことをいいます。古語では満足する・楽しむといった意味でも使われていましたが、現代では用いられません。
もともとはサ行変格活用の動詞「甘んずる」が、上一段活用の動詞に変化して「甘んじる」という形になりました。
また、「甘んじる」と同じく、決して十分とはいえない現況を我慢して受け入れる意味の「甘んじて受け入れる」という慣用表現もあります。「甘んじて」は「甘んじる」の連用形です。
「甘んじる」の使い方と例文
ここでは、「甘んじる」の使い方をシチュエーションごとに見ていきましょう。
現状でよしとする
「甘んじる」は決して完全に満足はしていないが、そのような状況を受け入れる時に使われます。また、一定の条件を満たしている、自分が許容できる範囲なので「それで良し」としてしていることを表す場合もあります。
【例文】
- 先輩に「現在の立場に甘んじてはいけない」と言われた。
- 清貧に甘んじる生活だが、家族そろってで元気でいることに幸せを感じている。
- 1番になれずに2番手に甘んじているが、実力が伴わないので仕方がない。
逆らえずに我慢を強いられる
「甘んじる」は、状況に逆らえずに我慢を強いられるさま、もしくは、良くない状況下でも抵抗せずにひたすら耐える様子を表す場合にも用いられます。例えば、他人のミスの責任を押しつけられて不本意な処遇を受けるといったケースです。
【例文】
- 不祥事の責任を取るため、閑職に甘んじた。
- 必要な資格が取れずに、薄給に甘んじるしかない。
- 後輩に侮られるような立場に甘んじている。
立場上やむを得ず
立場上やむを得ず、その状況に「甘んじる」という場合もあります。気が進まないけれど自分が折れるしかない、相手の言い分を呑むしかないなどの、「しかたなく譲歩した」という気持ちが込められています。
【例文】
- 店のバイトが立て続けに辞めたため、店長が甘んじて代わりにシフトに入った。
- 販売店に責任があっても、メーカー側は顧客のクレーム処理に甘んずるしかないのか。
古語の例:満足する
【原文】一たびは坐して(ざ-して)まのあたり奇景を甘んず
【現代語訳】あるときは座って、目の前の珍しい景色を見たような気になって満足してしまう
「跋」は作品の巻末に記される「あとがき」のことです。引用した「跋」は、元禄7年(1694年)の初夏に作者の松尾芭蕉の親友である柏木素龍(かしわぎそりゅう)によって書かれています。
素龍はここで、『奥の細道』を読んでいるうちに自分も旅に出ようと思うこともあれば、座ったままでも珍しい景色を見たように感じることもあると作品を褒める一方で、芭蕉の体調を気遣っています。芭蕉はその年の10月、惜しまれながら亡くなりました。
「甘んじる」の類語
甘受する
「甘受(かんじゅ)」とは、自分にとって好ましくない物事や条件などをやむを得ないと考えて仕方なく受け入れることをいいます。「甘んじる」と似た意味の言葉で、「甘受せざるを得ない」などの形で使われることもあります。
【例文】
- 成績が大幅に下がった野球選手について、減俸の条件を甘受すべきというファンの声が大きくなっている。
- その政治家は多くの人の苦言を甘受せざるを得ないと言っていたそうだ。
不承不承/不請不請
「不承不承/不請不請」(ふしょうぶしょう)とは、嫌々、渋々という意味です。「不承/不請」という同じ言葉を重ねて、「気は進まないけれど仕方なく行う」様子を強調しています。
ただし、これは副詞なので、「甘んじる」のように使うためには「不承不承~する」のように動詞と組み合わせます。
なお、「不承」は「不承知」の略。気が進まないが承知することです。他方、「不請」は自分では希望しないことを仕方なくすること。もともとは仏教用語で、菩薩(ぼさつ)の慈悲による行為(人から請い願われなくても救いの手を差し伸べること)をいいました。
【例文】
- 単身赴任にはなるが、出向の辞令を不承不承受けることにした。
- くじ引きで書記を押し付けられ、不承不承やっている。
辛抱する
「辛抱(しんぼう)する」は、辛いこと、苦しいことがあっても強く耐えること、じっとこらえて我慢することをいいます。
【例文】
- このブラック企業で10年辛抱してきたが、やっと転職先が決まった。
- この18年間ずっと辛抱して家族の介護しているが、近くに住む親族は手伝ってくれる気配はない。