「超える」の意味
「超える」と「越える」の違いは、いざ説明するとなると非常に難しいものです。異なるところもありつつ、意味が重複する部分もあるからです。初めに今回のテーマである「超える」からご説明します。
「超える」とは、ある物事について、想定した基点を上回ることです。
「想定した基点」というのは、例えば「数」であったり「量」であったり、あるいは「時刻」「能力値」などさまざまですが、いずれも基準となる点が想定されている場合に、「超える」という漢字表記が用いられるのです。以下に具体的な例を挙げます。
「超える」の用例
- 制限時間を超える
- 時刻が12時を超える
- 千人を超える
- 100kgを超える
- 気温が30℃を超える
- 人類の能力を超える
- 予想を超える
- 常識を超える
上記の例を見ると、上回るべき「上限」があらかじめ規定されていることがおわかりになるでしょう。「時間」や「人数」や「重さ」「気温」はいうまでもなく、「人類の能力」や「予想」「常識」にも、おおよその上限(限度)というものが想定されています。それを上回る場合に「超える」と表現するわけです。
「越える」の意味
続いてよく似た漢字「越える」ですが、こちらは例から提示したほうが理解しやすいかと思います。
「越える」の用例
- ボールが頭上を越えていく
- 国境を越える
- 年を越す
- ハードルを飛び越える
- 困難を乗り越える
「超える」との違いがおわかりになりますでしょうか。「越える」の場合には「基点を跨(また)いで、通過して、先へ行く」というニュアンスがあるのです。上記の例の「ボールが頭上を越えていく」はそのままですね。
一方、「国境」「年」「ハードル」は、「基点」が想定されているのだから「超える」でもいいんじゃないかと思われるかもしれません。しかしこれらは基点を上回ったのではなく、基点を「跨いだ」(通過した)のです。「困難」についても、その状況をやり過ごしたので「乗り越える」と書きます。
具体的な数値のある場合に「超える」を使うと説明しているメディアもありますが、当たらずといえども遠からずです。年は通過するから「越える」ですが、「午前0時」や「一年の期限」は決まった数値を上回るから「超える」なのです。
あいまいな用例
こうしてご紹介した「超える」と「越える」の使い分けには時としてあいまいで、どちらとも取れる例もあります。例えば「越権行為」という表現。「権限」にはおのずと限度があるのですから、「超権」でもよさそうですが、「越権」「権限を越える」と書きます。
じつはここには「僭越(せんえつ)ながら」などと同じく「規則や決まりから外れる」という意味も絡んでくるのです。しかし、いずれにしてもあいまいですし、わかりにくいところです。
「超える」の他の意味
「超える」という言葉には他にも意味があります。初めから「優れていること」限定で、「ずっと優れている」「抜きん出ている」ことを表すのです。
また、「超」と漢字一字の場合は、「超能力」「超満員」「超人」など後ろに名詞を伴って、通常レベルを大きく上回っている様子を表します。ただし俗語では「超かわいい」「超むかつく」など、名詞以外で使われるケースも出てきました。
「超越」とは
使い分けの難しい「超」と「越」を合わせた「超越(ちょうえつ)」という熟語があるのは皆さんもよくご存じでしょう。意味は「超える」と同じといえば同じですが、「超越」という場合は超えている度合いが非常に大きいことを示す強調表現となっています。
それからもうひとつ、ある事物からはるかにかけ離れた状態にあるさまも「超越」という言葉でいい表されます。「世間の固定観念を超越して生きる人」「時代を超越して支持される名作」などという場合です。
「超える」のまとめ
「超える」という言葉の意味は誰でも理解できるでしょうが、こうしてご説明してきたとおり、「超える」と「越える」の使い分けとなると、一筋縄ではいきません。場合によっては、このケースではこちらの字を用いるのだ、というふうに覚えてしまうのもひとつの手かもしれません。