「幽寂閑雅」とは
日本の美意識とされているものの中に「侘び」(わび:簡素な中にある清澄で静寂な趣き)や「寂び」(さび:古めかしさに味わいがある。静かで趣がある)があります。
今回ご紹介する「幽寂閑雅」も「侘び」や「寂び」に通じるところがある言葉です。早速、どんな意味があるのか見ていきましょう。
「幽寂閑雅」の意味
「幽寂閑雅」<ゆうじゃくかんが>とは、物静かで趣がある様子という意味です。<ゆうせきかんが>と読むこともありますし、「幽寂間雅」と表記することもあります。
また、「静寂閑雅」<せいじゃくかんが>も同じ意味を持つ言葉です。
「幽寂」とは
「幽寂」の「幽」には「奥深さがある。物静か」という意味があります。一方、ここでの「寂」は「寂び(さび)」とは異なり、「声や音もなくひっそりとしている。静か」という意味です。
この2つの漢字を合わせた「幽寂」は「ひっそりと静かで奥深いこと、その様子」を表しています。
「閑雅」とは
「閑雅」の「閑」は「のんびりする。静かに落ち着いている」、「雅」は「上品で優美なこと。風流なこと」という意味です。
この2字を組み合わせた「閑雅」は、「(景色などが)物静かで風流な様子」や「おしとやかで上品なこと」を指しています。「幽寂閑雅」の「閑雅」は前者の意味です。
「幽寂閑雅」の使い方
- 秘境の宿で1ヶ月、幽寂閑雅な時間を過ごした。
- 人里離れたところで見た幽寂閑雅な風景に心に浸みた。
『庭をつくる人』
以下は、室生犀星が好みの庭などについて語った随筆からの引用です。竹の葉が擦れる音しか聞こえないような静けさが感じられるでしょう。
ー室生犀星『庭をつくる人』ー
「幽寂閑雅」の類語
「幽寂閑雅」を日常的に用いられる言葉で言い換える場合、用いられるのは「心に響く」(強く感動して心が引きつけられる)、「味わい」(物事の趣)などです。これらには「ひっそりとした静けさ」といった含みはありません。
しかし、「早朝の静かな境内の澄んだ空気が心に響いた」「人気のない山奥の別荘で過ごす時間は味わい深い」のように使うことで、平易な言葉で「幽寂閑雅」のニュアンスを伝えることはできるでしょう。
これ以外では、次のような言葉が類語として挙げられます。
「幽趣佳境」
「幽趣佳境」<ゆうしゅかきょう>とは、優れた芸術と接したことから生まれる「慎み深く、品のある趣や心境」という意味です。静かで奥深いという雰囲気は「幽寂閑雅」に通じるところがあります。
ところで、「佳境」というと、「プロジェクトも佳境を迎えた」のように最盛・ピークといった意味に用いられることもあるので、「幽趣」(奥ゆかしい趣)との組み合わせに違和感を覚える人もいるかもしれませんね。
「佳境」とは、本来は「興味深い場面」や「景色の良い場所」を表す言葉です。「幽趣佳境」においては前者の意味で用いられています。
「枯淡」
「枯淡」<こたん>とは、人柄や芸術などが「さっぱりして、かつ深みのあるさま」のことです。「幽寂閑雅」は人柄そのものについては用いられませんが、奥深いという雰囲気には似ています。
「枯淡」の「枯」は「かれる。長い時間を経てアクが取れて上品になる」、「淡」は「あっさりしている。執着がない」といった意味です。