「こよなく」とは?
「こよなく」は、少々古めかしい印象の言葉ですが、それもそのはず、いにしえから使われている形容詞「こよなし」の連用形です。現代では、独立して副詞として扱われています。
「こよなく」とは、この上なく、他の何とも比べることができないほどに程度が抜きんでているさまを意味する言葉です。
古語においては、程度がはなはだしいことのみを意味しましたが、現代日本語の「こよなく」は、そのはなはだしさもさらに最上級、「何にもまさる」レベルを表現する副詞へと変遷(へんせん)しました。
「こよなく」の使い方
ポイント①:ネガティブな内容には用いない
「こよなく」を使うにあたって、辞書上の定義からだけではわからない、しかし大切なポイントがあります。
それは、「こよなく」は、すべて「良いこと」の水準・程度がはなはなだしい時にのみ使われる、ということです。すなわち、ネガティブな内容には用いられません。
つまり、「こよなく優れている」とは言えても、「こよなく劣っている」とは言わないということです。たいていの場合は、対象についての愛情、賞賛などが最上級に含まれた感情において使われる言葉です。
ポイント②:修飾語
もう一つ、「こよなく」使い方のポイントとして、現代日本語では副詞として用いられていることから、動詞や形容詞、形容動詞を修飾する言葉と留意しましょう。
「こよなく愛する」など、動詞を修飾する例はよく見ますが、「こよなく綺麗」など形容動詞にも用います。
「こよなく~」の対象は、人間はもちろんですが、趣味や自然も含む万象です。その意味でも、しっかり理解して使いこなせれば、表現の幅も広がるでしょう。
「こよなく」の文例
- 鈴木君は、こよなく愛する娘さんのために、庭の大木に自力でツリーハウスを作り上げた。
- こよなく陶芸を愛する叔父は、ついに趣味の域をこえて人気陶芸家となってしまった。
- こよなく楽しそうに笑っていた由美ちゃんを見かけたが、婚約した直後と聞いて納得した。
- 麻里さんはモデルだけあって、こよなく美しい。
「こよなく」の類語
「こよなく」の類語は、枚挙にいとまがないほどたくさん存在します。若い人にとって「こよなく」は書くにも少々古めかしく感じて抵抗があるかもしれませんね。
「こよなく愛する」とラブレターに書いた告白が大失敗とならないように、「最上レベル」を表す類語群をご紹介しましょう。
「この上なく」
「この上なく」は、読んで字のごとく、最上の、最高の、最良の、これ以上ないほどの、という意味をもつ言葉です。
文例:この絵画は、シャガールの数ある名作のなかでもこの上なく優れた作品です。
「殊の外」
「殊の外」(ことのほか)には、2つの意味があります。
- 思いのほか、予想とかなり異なっているさま、意外。
- 水準や程度が際立っているさま。とりわけ、特別、格別。
「こよなく」の類語としては、意味2が該当します。
文例:音楽祭に参加した大勢のシンガーのなかで、Aの歌唱は声、情感、テクニックのすべてにおいて殊の外優れたものだった。
「極めて」
「極めて」(きわめて)は、2つの意味を持ちます。
- 程度や水準がはなはだしいさま。非常に、格別に、この上なく。
- 必ず、きっと。
「こよなく」の類語としては、1の意味が該当します。
文例:小学生のころから極めて走るのが早かった山田君は、長じて短距離走でオリンピック出場をはたした。
「すこぶる」
「すこぶる」は、漢字では「頗る」と書きますが、ほぼひらがなでしか表記されない言葉です。意味は2つあります。
- 程度、水準がはなはだしいさま、たいそう、非常に。
- 少し、いささか。
意味2は古い用法で、現代では使われず、「こよなく」の類語は意味1が該当します。
文例:真由美さんは、高校で男子にも女子にもすこぶる人気が高く、生徒会長に立候補すると群を抜いた集票で会長となった。