「泥水をすする」とは
「泥水をすする」<どろみずをすする>と聞いて、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の一場面を思い浮かべる人もいるかもしれませんね。主人公ジョジョが想いを寄せる少女エリナに、ディオが強引にキスをしたところ、エリナが泥水で口をゆすいで見せるというシーンです。
しかし、エリナの行動はディオに汚された唇を泥水で洗うことでしたから、「泥水をすする」とは少し異なります。
「泥水をすする」の意味
「泥水をすする」は、きれいな水も飲めないほどの苦境に陥った状態、地面を這いつくばるほどどん底に落ちた様子をたとえた言い回しです。つまり、「惨めな有様になる・苦境に立たされる」ことを表しています。
次に、「泥水」と「すする」、それぞれの意味を説明しましょう。
「泥水」とは
「泥水」<どろみず>とは、泥が多く混じっている濁り水のことです。舗装されていない道にできた水たまりや、大雨のときの河川を思い浮かべていただければ分かるでしょう。「泥水」を<でいすい>と読むこともありますが、意味は同じです。
また、転じて、芸妓や娼婦などの境遇(苦界:くがい)や、遊女や芸者の社会(花柳界:かりゅうかい)をたとえて「泥水」ということがあります。という意味です。「泥水稼業」や「泥水商売」は、芸妓や娼婦などを職業とすることを言います。
「すする」とは
「すする」を漢字で書くと「啜る」となります。「すする」とは、「コーヒーをすする」のように、液状のものを空気と一緒に口の中に吸い入れることを言います。
また、「洟<はな>をすする」のように、鼻水を息と一緒に吸い込むという意味もあります。「泥水をすする」という場合の「すする」は前者の意味です。
「泥水をすする」の使い方
「泥水をすする」は苦境に立たされるという意味ですが、延々と底辺を彷徨うような、希望も気力もない状態を指すときには使わないようです。
文章の中で使う場合、「いつか返り咲いてやる」という決意や、「いずれ隆盛を取り戻すだろう」という期待が含まれる傾向が見られます。
【例文】
- 今は受注が激減しているが、泥水をすする覚悟で耐え忍ぶしかない。
- 景気が上向いて、店を再開できるようになるまでは、泥水をすする思いだった。
- 彼は、会社が倒産してからというもの、泥水をすするような暮らし向きらしい。
- 正義感に駆られて上司に意見したところ、泥水をすするはめになった。
「泥水をすする」の元ネタ
「泥水をすする」という言葉の発祥というわけではなさそうですが、この言葉がSNSなどで用いられるようになったきっかけは、4コマ漫画作品『ポプテピピック』の中に出てくるセリフです。
連載打ち切りの最終回において「覚えてろ竹書房…地べたを這いドロ水をすすってでもまんがライフWINにもどってきてやる…」との言葉を残しています。まんがライフWINは本作が掲載されていたWEBコミックサイト、竹書房はこのコミックサイトを運営している出版社です。
「泥水をすする」の類語
【辛酸を嘗める】<しんさんをなめる>
辛い目にあう・大変な苦労をすることを表す慣用句です。「辛酸」とは、つらく苦しいことや苦い経験という意味ですから、「泥水をすする」に近い意味だと考えられます。
【窮地に陥る】<きゅうちにおちいる>
「窮地」とは、逃れようのない苦しい状態を指しますから、「窮地に陥る」とは苦しい状態に追いやられるという意味です。「ピンチに立たされる」と言い換えてもいいでしょう。
【臥薪嘗胆】<がしんしょうたん>
もともとの意味は、復讐心を忘れないために苦しい状況に身を置くことです。転じて、目標を達成するために苦労することをも表します。いつか這い上がるというニュアンスを含む点で、「泥水をすする」に似ていますね。
「泥」に関する言葉
【泥を被る】<どろをかぶる>
「他の人の悪事や失敗の責任を取る・不利を承知で損な役回りを引き受ける」という意味の慣用句です。
【泥のように眠る】
「酔いや疲れのせいで正体をなくすほど深く眠ること」を言います。体にまったく力が入らず、いくら起こしても起きないような状態のことです。
【雲泥の差】<うんでいのさ>
「雲」は「天」、「泥」は「地」を表しています。「雲泥の差」とは、天と地ほども差があること、つまり、「非常に差が大きいこと・大きな隔たりがあること」を表しています。「月とスッポン」と同義ですね。
【火事場泥棒】<かじばどろぼう>
「火事場の騒ぎに紛れて盗みを働くことやその盗っ人」のことです。また、「火事以外の混乱に乗じて不正を働くことや不正をする人」を指す場合もあります。