「敵に塩を送る」とは
「敵に塩を送る」とは、「敵の弱みにつけこまず、逆にその苦境から救う」「敵が苦しんでいる時にその苦境を救う」ということです。良いイメージで好印象を与えるフレーズですね。
このフレーズは、戦国時代の故事に由来しているといわれています。由来の詳細を見ていきます。
「敵に塩を送る」の由来
「敵に塩を送る」は、戦国時代の故事に由来していると言われています。武田信玄が治める甲斐では、塩を駿河湾から仕入れていました。しかし、駿河の今川氏真は、商人たちに甲斐には塩を売らないように、「塩止(しおどめ)」を行ったのです。
それを受け、信玄と敵対関係にあった越後の上杉謙信が、塩不足に苦しむ信玄に塩を送りました。美談として有名な故事ですが、実は、謙信が塩を高く売りつけて利益を得たという説もあるので、真実は定かではありません。
「敵に塩を送る」の使い方と例文
「敵に塩を送る」は、スポーツやビジネスの場面でよく使われます。特にスポーツの場面においては、「敵に塩を送る」行為が、スポーツマンシップにのっとっていると評価され、美談となることが多いようです。
例文
- 高校野球の試合でのことです。酷暑の中プレーしていた投手が脱水状態による不調に陥りましたが、すかさず相手チームの選手が給水を行いました。敵に塩を送るすばらしい光景でした。
- 経済制裁措置がとられている国に対して、敵に塩を送るというよりも、人道支援の立場から、食糧や医薬品が送られた。
- 私は、彼と違って、敵に塩を送るような気持ちはもっていない。
- 困った時はお互い様だ。たとえライバルであっても、敵に塩を送るようなおおらかな気持ちで接しよう。
「敵に塩を送る」の類義語
「敵に塩を送る」は、「相手方を苦境から救う」が主な意味です。しかし、「競争の相手方を有利にさせること」や「勝負や競争の相手に有利な状況をあえてつくること」という意味ももっています。「敵に塩を送る」の類義語は、これらの意味が含まれる表現です。
- 相手を利する:相手方を有利にする。利益を与える。「我が社の失策が、競争相手を利する結果になってしまった」
- 相手の得になる:相手方が有利であるさま。「そんな言い方はけんか相手の得になるだけだから、慎みなさい」
- ハンディキャップを与える:不利な条件を与える。強い者へ負担を加える。「ハンディキャップを与えないと、力の差があり過ぎて不平等だ」
戦国時代の故事・ことわざ
「敵に塩を送る」のように、戦国時代の武将の言動に由来する故事・ことわざはたくさんあります。
知らぬ顔の半兵衛
本当は知っているのに知らんふりをすることを「知らぬ顔の半兵衛」と言います。「半兵衛」とは、戦国時代の屈指の知将「竹中半兵衛」のことです。半兵衛はとぼけるのが上手でした。
織田信長が送り込んだ男をスパイだと見抜きつつも、知らんふりをして、逆にその男から織田陣営の情報を得ていたというエピソードから、この言葉が生まれたのです。
元の木阿弥(もくあみ)
「元の木阿弥」は、せっかく一度はよくなったものが、また元の悪い状態に戻ってしまうことの例えです。
戦国時代の武将筒井順昭が死んだとき、後継者である息子がまだ幼かったためにその死が隠されました。筒井順昭の替え玉を、声の似ていた「木阿弥」という男が務めました。息子の成人後、隠されていた死が公表され、「木阿弥」は元の身分に戻ったそうです。
諸説あるようですが、これが「元の木阿弥」の有力な語源だと言われています。
洞ヶ峠(ほらがとうげ)を決め込む
「洞ヶ峠を決め込む」とは、形勢がいい方につこうとして、態度を決めずになりゆきをうかがうことを言います。これは、本能寺の変の直後に、織田信長の重臣である羽柴秀吉と、信長を討った明智光秀がぶつかった山崎の合戦での故事が由来となっています。
山崎の合戦で、筒井順慶という武将は羽柴・明智の両軍から支援を要請されましたが、どちらに味方するか、すぐには決めませんでした。洞ヶ峠で戦況を眺め、優勢な方に味方しようと様子をうかがったのです。
ここから、形勢がはっきりするまで日和見することを表す表現になりました。
「敵に塩を送る」にちなんだ行事
「敵に塩を送る」にちなんだ地域の伝統的行事があります。毎年1月に長野県松本市で開催されている「松本あめ市」です。「敵に塩を送る」は「塩」ですが、なぜ、「あめ」なのでしょうか。
「松本あめ市」
「松本あめ市」は、塩止にあっていた松本の武田信玄のもとに、上杉謙信からの塩が届いたとされている1月11日を記念して「塩市」が開催されたことが起源だそうです。やがて、「塩」よりも松本地域特産の「あめ」を売る市として定着してきました。
当日は、「敵に塩を送る」にちなんで上杉軍と武田軍に分かれて綱引きを行う「塩取合戦」など、多くの催しが繰り広げられます。新春の風物詩として松本の伝統的な行事となっています。