「老兵は死なず」の意味
「老兵は死なず」という語句は、正式には後に続く言葉があり、「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」が元来の形です。もともとこの言葉は後述するように、米国の有名な演説で用いられたもので、その際には「老いた兵士は決して死んでしまうのではない。ただ人々の目の前からは姿が消え行くだけで、その魂は生き続ける」といった意味を示していました。
すなわち、老いて退くとはいえ、国のために戦ってきた兵士の誇りは未来も変わらない、という不変性を表したものでした。ただ現代の日本では「役目の終わった者は、後進にそれを託し、表舞台から静かに去っていくものだ」といった〝引き際の潔さ〟を示す意味合いで使われることが一般的になっています。
「老兵は死なず」の由来
「老兵は死なず」という成句は、元来は英語の兵隊歌の一節がオリジナルだといわれます。「Old Soldiers Never Die」という歌で、「老兵は死なず、単に消え去るのみ」との歌詞が元になっています。さらに源をたどると、この歌はゴスペル音楽の替え歌で、初めはイギリス兵によって歌われていたといわれています。
この句が世界的に有名になったのは、1951年4月、ダグラス・マッカーサー元帥が米国上下両院議会で行った退任演説の中で引用したときからです。同元帥は第2次大戦勝利後、連合国軍最高司令官として日本を統治。朝鮮戦争が勃発すると国連軍総司令官に任命されましたが、戦争の遂行方針をめぐって米本国と対立し、時のトルーマン大統領から解任されました。退任演説で元帥は次のように述べました。
この演説はその後「老兵は死なず演説」と呼ばれ、世界各国、さまざま形で模倣されたり引用されるようになりました。
「老兵は死なず」は解釈が変化?
マッカーサー元帥は朝鮮戦争の遂行をめぐり、中国を脅威とみなし攻略すべきだと主張しましたが、トルーマン大統領は深追いすべきでないと判断し対立しました。退任演説で元帥はあらためて自分の主張の正しさを強調し、大統領の判断に批判や反論を繰り返しました。静かに「消え去った」どころか、その演説後も全米各地で何年にもわたり、同様の遊説を続けたそうです。
つまり「老兵は死なず」は、まさに「解任はされても自分の考えは正しく、皆に支持され生き続ける」と正当性を訴える言葉だといえるわけです。ところが日本では、なぜか後半の「ただ消え去るのみ」だけがクローズアップされ、「老人は四の五の言わず、黙ってひっそりと消えていくだけだ」という意味合いで使われることが多いようです。
これは「They just fade away」という当該部分の訳語の印象によるものだ、との指摘もあります。英語での本来の意味合いは「目に見えなくなるだけ」と「死なず」に重きが置かれているニュアンスなのに対し、日本語訳では「引き際の美学」が重視されているイメージを受けるからです。
「老兵は死なず」の例文
- 皆さん「まだまだやれる」と言ってくださるが、「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」。若い人に道を譲ることも大切です。今後は皆さんでチームをもり立てて勝利を目指してください。
- 道半ばで辞めることに「悔しくないのか」とおっしゃる方もいるが、これが運命というものだ。「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」という言葉通りだよ。
「老兵は死なず」のまとめ
「老兵は死なず」という成句、これを最初に使ったマッカーサー元帥と、今日本で使われる意味合いとはまったく真逆だという事実には少なからず驚かされますね。ただ日本も「少子高齢化」が進み、高齢者も元気なうちはバリバリ働かねばならない時代。「50歳まで、いやできる限り現役を続ける」と宣言するメジャーのイチロー選手のように、「老兵も簡単には死なない」という原典通りの意味に再び戻る日は、近いのかもしれません。