「薄氷を踏む」とは?
「薄氷を踏む(はくひょうをふむ)」とは、「きわめて危険な状況に臨む」という意味です。「薄氷」とは、「薄く張った氷。うすごおり」のことです。
湖などに薄く張った氷の上を歩けば、氷が割れて水に落ちる危険がありますよね。「薄氷を踏む」とは、そのような緊迫感ある状況に臨むことを例えています。
「薄氷を踏む」の由来
「薄氷を踏む」は、「薄氷を履む」とも書きます。由来は、儒教の基本書とされる四書五経のうち、五経の一つに数えられる『詩経 ー小雅・小旻ー』の「戦戦兢兢(せんせんきょうきょう)として、深淵(しんえん)に臨むが如(ごと)く、薄氷を履(ふ)むが如し」という一節です。
原文では「戦戦兢兢、如臨深淵、如履薄氷」。意味は、「深い淵(ふち)の断崖(だんがい)に立っては落ち込むことを恐れ、薄い氷を踏んでは割れて水中に落ちることを恐れるように、おののき恐れてその身をつつしむ」というものです。
「薄氷を踏む」の使い方
- 会社の経営がうまくいかず、いつ倒産するかと薄氷を踏むような毎日を過ごしている。
- 戦地から命からがら逃げてきた難民は、薄氷を踏む思いで生活してきたに違いない。
- 今回の会談には、両者共に薄氷を踏む思いで参加したと話していた。
- 私の祖父は戦時中、薄氷を踏む思いで敵地に向かったと語っていた。
「薄氷を踏む」の誤用
「薄氷を踏む」を、「薄氷を踏んで日本一怖いと言われているジェットコースターに乗ってみることにした」というように「危険を冒す」という意味で使うと誤りになりますので注意が必要です。
「薄氷を踏む」の類語
「虎の尾を踏む」
「虎の尾を踏む」とは、「きわめて危険なことをすること」の例えとして使われる言葉です。虎の尻尾を踏みつければ、怒った虎に噛み殺される危険性があることから来てます。同様の表現としては、「虎の口へ手を入れる」という言葉もあります。
五経の一つである『易経(えききょう)』の一節、「虎尾(こび)を履む、人を咬(か)まず」に由来します。「履む」の「履」は、『易経』では人徳の基本とされている「礼儀」という意味です。
これは、礼儀正しい態度に改めれば、事なきを得る(虎の尾を踏んでも、咬まれない)という教訓ですが、「薄氷を踏む」の類語としては、前段の「危険なことをする」というニュアンスが該当します。
「一触即発」
「一触即発(いっしょくそくはつ)」とは、「ちょっと触れても、すぐ爆発しそうなこと。危機の差し迫っている状態」という意味を持つ言葉です。
「一触」は、「軽く触れること」を意味し、「即発」は、「直ちに爆発すること」ことを意味する言葉です。多く、ちょっとしたきっかけで重大な事態になる恐れがあるような、うかつに手を出すことのできない場面で用いられます。
「氷に座す」
「氷に座す(こおりにざす)」とは、「きわめて危険な状況にいること」の例えとして用いられる言葉です。水の上に張った氷の上に座ると、体温で氷が溶けて落下してしまうことから来ています。
「春氷を渉る」
「春氷を渉る(しゅんひょうをわたる)」とは、「非常に危険なこと」の例えとして用いられる言葉です。春は気温が上がり、冬に凍った氷が段々と溶けていきますね。いつ割れるかわからないような春先の氷の上を歩くのはとても危険であることから出来た言葉です。
「危うきこと累卵の如し」
「危うきこと累卵(累卵)の如し」とは、「いつ崩れるかわからないような、危険な状態」の例えとして用いられる言葉です。
「累卵」とは、「卵を積み重ねること」を意味しており、積み重ねられた卵はいつ崩れるか分からないものであることから、不安定で危機感あることを表現しています。