「二足のわらじ」とは
「二足のわらじ」の意味
「二足のわらじ」とは「二足のわらじを履く」ということわざを省略した言葉です。一人の人間が同時に二足のわらじを履くことは困難であることから、性質の違う両立が難しい仕事を兼業することを意味します。
もともとは、両立が難しいことに手を出して結局どっちつかずになるというマイナスのイメージを持つ表現でしたが、現在では、二つの仕事を両立させて活躍している、というようなプラスのイメージで使われることが多くなりました。
「わらじ」と「ぞうり」の違い
「わらじ(草鞋)」とよく似た履き物として思い浮かぶのが「ぞうり(草履)」です。「履」も「鞋」も「靴・履き物」を意味する漢字ですが、二つは別の履き物です。ここで両者の違いをご紹介しておきましょう。
「わらじ」は、藁(わら)で編んだ足型の薄い履き物です。一般的には、足先に長い二本の緒(お=紐)がついていて、それを左右の縁(ふち)やかかとの輪に通し、足首にくくりつけて使います。お祭りの神輿(みこし)を担いだときに履いたことがある人もいるかもしれません。
「ぞうり」は「わらじ」と似た足型の薄い履き物で、親指と人差し指で挟み込む鼻緒がついています。夏に見かける「ゴムぞうり」のようなかたちですね。もともとは藁で作られていましたが、現在はイグサ、竹皮、ビニールなど様々な素材が使われています。
「わらじ」には紐がついていてるため足首に固定しますから長距離歩行が可能です。一方、「ぞうり」は鼻緒に足の指を引っ掛けているだけですから、長距離の歩行には適していません。
「二足のわらじ」の例文
- この本の作者は、主婦と作家という二足のわらじで奮闘している女性です。
- 欲しかった車を買うための貯金ができたので、二足のわらじを履くのをやめて、これからは本業に専念するよ。
- 自分の経験をもとに、『二足のわらじ生活のススメ』という本を出版するつもりです。
「二足のわらじ」の由来
江戸時代は賭博禁止令がありましたから、博徒(ばくと:賭博で生計を立てる人)は取り締まり対象でした。しかし、実際は、犯罪者を捕まえるはずの捕吏(ほり)から十手(じって:鈎付きの棒)を預かった博徒が、別の博徒を取り締まる役割を兼ねている始末でした。
これでは規制もままなりませんよね。このように、同じ人が相反する仕事を持つことを指す表現として生まれたことわざが「二足の草鞋を履く」なのです。
「わらじ」を用いたことわざ
長いわらじを履く
「わらじを履く」は旅に出ることを意味し、博徒(ばくと)が悪事の発覚を恐れて、遠くへ旅に出ることを言います。交通機関が発達した現代では、これを「高飛び」と言いますが、昔は長旅も徒歩だったのです。
わらじを脱ぐ
家や宿に落ち着いたらわらじを脱ぎますね。その様子から、「わらじを脱ぐ」とは、旅を終える・旅の途中で宿を取る・博徒が旅の途中で身を落ち着けるといった意味で用いられる言葉です。博徒はまた新たに悪い商売を始めたのでしょうか。
仲人はわらじ千足
今ではお見合い結婚は主流ではないですが、昔は仲人が両家を取り持って縁談をまとめてくれたものでした。「仲人はわらじ千足」とは、仲人は両家の間を行ったり来たりするので、千足のわらじを履きつぶすほど大変な苦労をするものである、という例えです。
駕籠に乗る人担ぐ人、そのまたわらじを作る人
駕籠に乗るのは身分の高い人です。駕籠屋は運送業、わらじを作るのは製造業や農業に携わる人ですね。
「駕籠に乗る人担ぐ人、そのまたわらじを作る人」とは、世の中にはいろいろなな職業、さまざまな境遇がいることの例えとして用いられます。また、異なる境遇の人たちが、うまく社会を構成していることをも表しています。
「二足のわらじ」の英語表現
"one wears two hats"
日本語では「わらじ」で二つの仕事を兼ねていることを例えていますが、英語では「帽子(hat)」で例えます。"one wears two hats"(二つの帽子をかぶる)は、「二足のわらじを履く」に相当する表現です。
- 例文:She wears two hats as a writer and as a singer.
- 和訳:彼女は作家と歌手という二足のわらじを履いています。
"Don't have too many irons in the fire."
"Don't have too many irons in the fire."は、直訳すると「炉の中にあまり多くの蹄鉄(ていてつ)を入れるな」という意味です。これは、やりかけの仕事があるのに、新たなことに手を出してはいけないという教訓を表しています。