「偲ばれる」とは?
「偲ばれる」(しのばれる)とは、「偲ぶ」の連用形に受身・可能・自発などを表す助動詞「~れる」を付けた表現であり、「(〇〇が)偲ばれる」「(〇〇を)偲ぶことができる」という意味の言葉です。
「偲ぶ」とは
「偲ぶ」には、以下の三つの意味があります。
- 過ぎ去ったこと、離れている人のことをひそかに思い慕う。恋いしたう。
- 心ひかれて(見えないところなどに)思いはせる。
- 賞美する。
1番目・2番目の意味から考えると、「今ここにいない対象に、思いをはせる」という意味が浮かび上がりますね。かなりかみ砕いて言えば、「何かを良い意味で思い出すこと」であると言ってもよいかもしれません。
なお、3番目の「賛美する」という意味は、万葉集などの古典で用例が見られますが、今日ではほとんど使われていないため、本記事では使い方の説明を割愛します。
「偲ばれる」の使い方
「偲ばれる」は、主に過去の出来事やその情景、あるいはかつて存命であった人物を思い出しながら、それが懐かしく思われる、恋しく(良い意味に)感じられる、という意味合いで使用します。
基本的には「過去」について使われる言葉ですが、「この様子じゃ、〇〇の苦労が偲ばれるな」(〇〇は苦労しているのだろう)のように、現在の対象についても「自然に想起される(推測できる)」事柄であれば使うことができます。
「~れる」の助動詞がつく通り、「偲ばれる」は受身、または自発的に胸に思い起こされる、ありありと想起することができる、という文脈の中で使う言葉です。「(積極的に)思い出す」という意味で使いたい場合には、「偲ぶ」としましょう。
例文:人(故人)に対して
- 祖父が他界してから三月が経つが、今も仏壇に手を合わせにくる人がいる。祖父は、ずいぶん多くの人から偲ばれているようだ。
- 〇〇さんのご生前のご活躍・ご功績が偲ばれます。心よりご冥福をお祈り申し上げます。
例文:過去に対して
- 私も歳を取ったもんだ。昼も夜もがむしゃらに働き、毎晩のように飲み明かしていた頃が偲ばれるよ。
- 今は観光地となった古代ローマの遺跡を歩いていると、かつてのローマ帝国の栄華が偲ばれる。
例文:現在に対して
- 仕事が忙しくて、もう何年も実家に帰れていない。夜、疲れてベッドに横になるたびに、故郷や友人たちのことが偲ばれる。
- 彼のふだんの立ち居振る舞いからは、誰よりも優しい人柄が偲ばれる。
(注:現在あるものに対して使う際には、「目に見えないもの」や「今ここにはないもの」が対象である必要があります)
「偲ばれる」の英語表現
「偲ばれる」を英語で言う場合には、「remind」(思い出させる)が適切です。「A remind me of B」で、「Aが私にBを思い出させる(≒Bが偲ばれる)」と表現できます。
また、「remind」の他にも、「心が過去に呼び戻される」(bring back)、「故人は今も称賛されている」(praise)など、言葉選びによってさまざまな文章で「偲ばれる」を言い表すことができます。
例文
- The way she speaks reminds me of her mother.(彼女のしゃべり方からは、彼女の母が偲ばれる)
- My father who died 5 years ago has still praised by neighbors.(5年前に亡くなった私の父は今も隣人らから偲ばれている)
「偲ばれる」と「忍ばれる」
「偲ばれる」と読みが同じであるためか、まれに意味が混同されて使われている言葉に「忍ばれる」があります。「忍ばれる」の元の語形は「忍ぶ」であり、その主な意味は以下の通り。
- (主に精神的な苦痛を)こらえる、我慢する、耐える
- 秘密にする、かくす、人目につかないようにする
例えば、人の死や、過去の出来事について「つらい気持ちを耐え忍ぶ」という使い方はできるのですが、これを「(何かが)忍ばれる」という形で使うことはできません。
「偲ばれる」と「忍ばれる」に共通する意味や使い方はありませんので、混同にはご注意ください。