「且つ」とは?
「且つ」は、〈かつ〉と読みます。漢文訓読に由来する言葉であり、副詞、または接続詞としてはたらく言葉です。日常的によく見られるのは、接続詞としての用法でしょう。
「且つ」:接続詞
接続詞としての「且つ」は、ある事柄に他の事柄が加わることを表します。「そのうえ」や「それに加えて」と言い換えることのできる言葉です。
【例文】
- 私にとって仕事は、十分な収入があって、且つ自分が楽しいと思えるものでなければならないと思っています。
「且つ」:副詞
副詞としての「且つ」は複数の意味を持ちます。とはいえ、現代では、下の「1」の意味で使われることがほとんどです。
- 2つ以上の事柄や行為が並行して行われること
- ちょっと、わずかに
- すぐに、そのそばから
- あらかじめ、前もって
【例文】
- 久々の同窓会ということもあって、全員が当時のままの笑顔で且つ笑い、且つ飲み、且つ歌った。
上の例文は「1」の用法です。2~4については、有名な古典作品から引用してみましょう。
古典作品における使用例①
古今集より
(現代語訳:陸奥の安積にある沼に「花かつみ」が咲いている。可憐なかつみの花のようなあの人を、私は少しだけ見ている。少しだけだからこそ、こうしてずっと恋しい気持ちが続くのでしょうか)
古典作品における使用例②
千載集より
(現代語訳:馬の足跡は、できたそばから降ってくる雪に埋もれて姿を消してしまう。後から来る人は、道に迷ってしまうだろうなあ)
古典作品における使用例③
平家物語より
(現代語訳:既にお聞きになっておられたのであろうか)
「且つ」の類語
接続詞としても副詞としても、「且つ」という言葉は2つの行為や事柄が並行して、または新たに加わって行われることを表します。
「且つ」の使い方を、混同されがちな「および」「または」「並びに」「或いは」と比較しながら確認してみましょう。
「且つ」の使い方
まずは「且つ」の使い方を今一度確認しておきましょう。「ある事柄に別の事柄が加わること」「同時に並行して行うこと」などの意味であり、「同時に」「また」「その上」などの言葉に置き換えることができます。
「且つ」は「および」と働きがよく似ていますが、明確な違いが1つあります。
「および」は事柄どうしを並列する場合、またはある事柄に別の事柄を付加する場合に用いる言葉ですので、「および」によってつながれるのは名詞どうしです。一方で、「且つ」は動詞や形容詞、文節をつなぐために用いられます。
「および」の使い方
「および」には、「及ぶこと、届くこと」という名詞的な使い方もありますが、ほとんどの場合、「複数の事物や事柄を並列的に挙げたり、別の事物や事柄を付加する」働きをする接続詞として用いられます。
例を挙げるなら、「水曜および木曜」「英語および数学」という使い方ですね。3つ以上のものを並べる場合には、「鉛筆、消しゴム、ノートおよび下敷き」のように、最後の1つ前だけに使います。
「または」の使い方
「または」は接続詞の1つで、「複数の選択肢のうち、どれか1つを選ぶ」際に用いられます。「父親または母親」「本人または配偶者」などが使い方の例です。
先の「および」との違いを挙げるなら、「選択」の意味合いの有無がポイントとなります。「および」は複数の事象を並列するだけですが、「または」は複数のものから1つを選択する場合に使われる言葉です。
「並びに」の使い方
「並びに」も、前後2つの事柄をつなぐ際に用いられる言葉です。具体的には、「住所並びに電話番号をご記入ください」「父兄並びにご来賓の方々」のように使われます。
「および」とほぼ同じ役割を果たす言葉ですが、若干の相違点があります。「および」が種類や性質が似たものをつなぐ言葉であるのに対し、「並びに」がつなぐ言葉は種類や性質が異なる言葉である、というのがその違いです。
たとえば、「レタスおよびトマト並びにパン」という具合です。また、「レタスおよびトマト並びにハムおよびベーコン」のように、大きな括りに「並びに」、小さい括りに「および」を使うという区別もできます。
「或いは」の使い方
「或(ある)いは」は、「いくつかある同じ性質の事象の中で、どれか1つ」を表す言葉です。使い方の例としては、「公的な書類で用いるボールペンの色は、黒或いは青とされている」などが挙げられます。
複数から1つを選択する、という意味では「または」とよく似た言葉です。違いを挙げるならば、「或いは」は「必ず1つを選択する」のに対し、「または」は「すべてを選択する可能性もある」ということでしょうか。
「私か、或いは妻が行きます」と言われた場合、訪問客は必ず1人ですが、「私、または妻が行きます」と言われた場合、夫婦そろっての訪問があり得る、ということですね。
論理積「且つ」
数理論理学において、2つの命題P,Qがともに真であることを示す論理演算を「論理積」(ろんりせき)と言います。その際、論理記号「∧」を用いて「P∧Q」と書き、「PかつQ」と読みます。
ちなみに、2つの命題P,Qのいずれか少なくとも1つが真であることを示す論理演算を「論理和」と言い、「P∨Q」と書いて「PまたはQ」と読みます。
論理積と論理和の具体例
「論理積(且つ)」と「論理和(または)」の具体例を挙げてみましょう。下のような4人の人物がいるとします。
- Aさん:20歳、男性、会社員
- Bさん:30歳、女性、専業主婦
- Cさん:18歳、男性、高校生
- Dさん:45歳、女性、会社員
このとき、「男性、且つ会社員」という条件にあてはまるのはAさんのみ、「男性、または会社員」にあてはまるのは、Aさん、Cさん、Dさんの3人、といえますね。
論理積「且つ」は「すべての条件があてはまる」、論理和「または」は「挙げられた条件のうちの、どれか1つにでも当てはまるものすべて」と覚えましょう。