「過たず」とは?
「過たず」は「あやまたず」と読みます。動詞「過つ」に、打消しの助詞「ず」がついた言葉です。
「過つ」が失敗や間違い、悪いことや有害なことをしてしまうという意味なので、それを打ち消す「過たず」は間違いや失敗がないこと、予想通りであるという意味になりますね。
「過たず」の意味と使い方
「過たず」について、「狙い通りに」「予想通りに」の2つの意味に分け、それぞれの使い方とともに詳しく見ていきましょう。
狙い通りに
「過たず」には狙い通り的を射るという意味があります。狙いを外さない、失敗しないということですね。
弓道や射的、アーチェリーなどをイメージしてみましょう。どれも的を射抜くスポーツです。的の中心に目来を定めて、正確に狙い通り打ち抜くことが「過たずに打ち抜く」ことです。
【例文】
- まるで那須与一のように、過たずに金的を射抜いて見せた。
- 狙い過たず、凶弾は右目を貫いた。
- 投げたボールは過たずすべてのピンを倒していった。
予想通りに
「過たず」は予想通り、思った通りという意味でも使われます。予想が正しかった、想定から外れないということですね。
また、意図や狙いを正確に理解していることにも使います。誤解や間違いがなく正確に、ということです。「弱点を過たず見て取る」なら弱点を正確に理解する、「計算を過たず判断する」なら成り行きを間違えずに予想し、判断しているといえます。
【例文】
- 予言の言葉は何ひとつ過たずに現実のものとなった。
- 絶対に振られると誰もが思っただろう。過たずに彼は失恋した。
- 込められたメッセージを過たずに理解できたのは一人だけだった。
「過たず」の類語
案の定
「案の定(あんのじょう)」とは予想通り、思った通りという意味の言葉です。物理的に的を狙うという意味はありませんが、比喩的な「狙い通り」の意味は「過たず」と同じです。
「案」は考えや予想、計画のことです。提案や素案に使われますね。「定」はさだめ、つまりは運命や決まったこと、避けられないことです。予想した内容から外れず、その通りになってしまうという意味で使用されます。
はたせるかな
「はたせるかな」の意味は予想通り、思った通りです。「案の定」とも同じ意味です。漢字では「果哉」や「果たせる哉」と書きます。
文法的には、動詞「果たす」と完了の助動詞「り」、終助詞の「かな」からなる言葉です。「果たす」は「約束を果たす」のように成し遂げるという意味。「かな」は「大丈夫かな」「助けてくれないかな」のように疑問や願望を表します。
「願望の通りになってほしい(なるだろう)」という思いが、その通りの成就につながったと捉えれば、「過たず」と似た意味であることがわかりやすいかもしれませんね。
「過」の字義
ところで、どうして「過」という字に間違いや失敗という意味があるのでしょうか。
「過」には、通過やろ過など通り過ぎることやよぎることという意味があります。そこから転じて、場所だけでなく時間が過ぎていくという意味にもなりました。
通り過ぎるということは、行き過ぎることでもあります。つまり、止まるべき適切な位置を逸脱してしまっています。そのため、「度が過ぎること」や「失敗する」という意味を表すようになりました。
「過つ」と「誤つ」
先ほど、「過」の字義を確認しました。「過つ」は行き過ぎること、程度が適切ではないような間違え方を表す言葉でした。では、同じく「あやまつ」と読む「誤つ」とはどう違うのでしょうか?
「誤」の意味は、やりそこなうことやふさわしくないことです。全体の方向性や目的に照らし合わせたたとき、「(方向や目的が)部分的に適切ではないこと」を示します。
よって、程度の問題であるのが「過」で方向から異なるのが「誤」と言えます。また、部分的な間違いである「誤」は修正できますが、行き過ぎてしまった「過」は修正できないとも言えます。熟語で見ても、「誤解」は解けますが「過去」はなかったことにはできませんね。