「スクラム」とは
ラグビーをご存知ない方でも、「スクラム」といえば、ラガーマンが肩を組んでいる様子を思い浮かべるかもしれませんね。「スクラム(scrum)」は元来、ラグビー用語です。
その後、「スクラム」という言葉の普及とともに、「スクラム」はラグビーを離れた例えとして使用されるようになりました。さらに、IT用語などに派生していったのです。
「スクラム」の元来の意味:ラグビー用語
「スクラム」の意味
ラグビー用語の「スクラム」は、両チームの3人以上の選手が肩を組んで押し合い、足元に入れられたボールを奪い合う、一連のプレーのことです。気迫あふれる選手たちがぶつかりあう様子は、ラグビー観戦の醍醐味とも言えるでしょう。
「スクラム」は、軽い反則があったり、プレーが膠着(こうちゃく)した時に、レフェリーの指示によって行われます。
「スクラム」の使い方
- スクラムが直ぐにつぶれてしまうため、レフェリーからスクラムのやり直しを命じられた。
- 後半、残り時間はわずかであったが、見事にスクラムトライ(※後述)で得点をあげ、逆転勝利となった。
「スクラム」の複合語
- スクラムトライ:スクラムを組んだまま相手のゴールへそのまま押し込み、トライをして得点をあげること。
- スクラムハーフ:スクラムの中にボールを投げ入れ、出てきたボールをバックス(後衛)に回すことなどを役割とするポジション。
「スクラム」から発展した意味や表現
「がっちりと列を組む」
「スクラム」はラグビーのプレーのひとつですが、派生して、ラグビー以外でも「がっちりと列を組む」こと「スクラム」と呼ぶようになりました。
ガッチリと列を組むとは、大勢の人々が肩や腕を組み合って、がっちりと固まり並ぶこと。または、大勢の人々が互いに肩や腕を組んで横に並ぶことです。デモ行進などにおいて、よく行われます。
【使用例】国会議事堂前では、大勢のデモ隊がスクラムを組んで行進を続けている。
「一致団結」
ラグビーから離れて「がっちりと列を組む」ことを指すようになった「スクラム」は、さらに派生して、「一致団結」することの比喩としても用いられています。「一致団結」とは、一体となって物事に取り組むこと、団結して物事に対処することです。
この意味で用いられる「スクラム」の類語には、(全員)一丸・タッグを組む・一致協力・一体となるなどの、全員まとまって事に当たる様子を表す言葉が相当します。
【使用例】全員スクラムを組んでこの難局に立ち向かっていくことが重要です。
「スクラム」から派生した専門用語:IT用語
IT用語の「スクラム」は、「アジャイルソフトウェア開発」の手法のひとつ。どの辺りが今まで説明した「スクラム」と関連するのか、順を追って説明しましょう。
「アジャイルソフトウェア開発」
従来のソフトウェア開発は、最終的な大きな成果物ありきで、それに向けて人材や工数を考えていました。一方、「アジャイルソフトウェア開発」は、人材と工数ありき。例えば、5人が1週間で何を作れるかを考えます。
少人数のメンバーが固定されたチームが、小規模な開発を重ね、それらを組み合わせることで大きな成果物を完成させるのです。
「スクラム」
「アジャイルソフトウェア開発」において、メンバーが固定された少人数のチームが、全員一丸となってソフトウェア開発に取り組むための方法をまとめたものが「スクラム」です。
従来の開発チームでは、リーダーの指示によってメンバーが働きます。しかし、「スクラム」における開発チームは、基本的にはスポーツチームのように横並びで、自主的にそれぞれの役割を果たすのです。
「スクラム」に定義されていることはチーム体制のことだけではありませんが、横並びに一致団結して事に当たるイメージから、「スクラム」と呼ばれるようになったのでしょう。
「スクラム」の使い方
- スクラムでは、スポーツのチームと同様、チームの醸成にある程度の時間がかかる。
- 我が社では、業務の効率化を図るため、スクラム会議を採用しています。
「スクラム会議」は、別名「スタンド・アップ・ミーティング(立ち会議)」。スクラムにおける会議手法で、チームの情報共有のため、立ったまま短時間で会議を行うことを習慣づけるものです。
「原子炉スクラム」とは
ラグビーの「スクラム(scrum)」とは由来となる英語のスペルが異なる言葉に、原子力発電所における原子炉の緊急停止停止を意味する「スクラム(scram)」があります。「原子炉スクラム」はその別称です。
原子炉では、地震などによって異常をきたした場合、大事故を防ぐためにスクラムさせなければなりません。スクラムを実現するためには、炉心に制御棒を挿入し、核反応を減少させる負の反応度を加えます。
『不惑のスクラム』
2016年3月に刊行された『不惑のスクラム』は、安藤祐介よる「シニアラグビー」を題材とした長編小説です。
シニアラグビーチームに所属する男たちが、悩みや問題を、仲間と協力しながら乗り越えていく物語。彼らが一致団結して問題を解決していく様子を、スクラムに例えて描いています。
テレビドラマ『不惑のスクラム』は、この小説を原作としたテレビドラマ。主演・高橋克典で、2018年9月から10月までNHKで放映されました。