「もがな」の意味
「もがな」は「~ならいいな、だったらいいな」という意味の、「もが(終助詞)」+「な(終助詞)」という構成で出来た語です。
もともとは「もがも(もが+も)」という語が使われていましたが、平安時代以後「もがな」に転じたと言われています。
また、「もがな」の前につく語が助動詞「ず」の場合は打ち消しの意味を伴うので、「~するまでもない」「~するべきでない」という意味合いに変わります。
「もがな」の使い方
「もがな」の用法は以下の3通りですが、現代では3の使い方をされることがほとんどです。
- 体言、形容詞の連用形、副詞につく
- 助詞「に」につく
- 助動詞「ず」につく
「もがな」の用例
「もがな」は他の品詞につけて自由に使用することが可能ですが、現代においてはほとんど古語となっており、主に以下のような決まった言い回しでのみ使用されます。
- 言わずもがな…言うまでもない、言うべきでない
- 聞かずもがな…聞くまでもない、聞くべきでない
- やらずもがな…やらなくてよい、やるべきでない
- あらずもがな…なくてもよい、ないほうがよい
【例文】
- 招待客のみなさんには言わずもがなだが、私はこの家の主である
- ナンパの結果どうだった?ごめん、聞かずもがなだったね
- 私のミスで、やらずもがなの追加点を許してしまった
- 新人のあらずもがなの発言で、にわかに会議室の空気が殺伐とした
「ず+もがな」のニュアンス
「~ずもがな」を使用する場合は、文脈により以下のようにニュアンスが変わります。
- ~するまでもないので、しない(例:結果など聞かずもがなだ)
- ~するまでもないが、あえてする(例:聞かずもがなだが、結果はどうだ?)
- ~するべきでないことをしてしまう(今のは聞かずもがなの質問だった)
「言わずもがな」と「言わぬが花」の違い
「言わずもがな」と音の響きが似ている言葉に「言わぬが花」があります。「言わぬが花」は、「はっきりと言葉にするより、あえて黙っている方が物事は趣深いものだ」という意味のことわざです。
この「あえて黙っている」というのがポイントで、「言うまでもない、言うべきでない」という意の「言わずもがな」と違い、「口には出来るけれどあえて言わない」のが「言わぬが花」です。
「言わずもがな」と「言わぬが花」を置き換えると、以下のように意味合いが変化します。
- この痴話喧嘩の結末は、言わずもがなだ。(言うまでもなくわかるでしょう)
- この痴話喧嘩の結末は、言わぬが花だ。(あえて言わないほうが趣があってよいでしょう)
古語「もがな」の用例
先述のとおり「~ずもがな」以外の「もがな」は今や古語となっています。その用例を、『小倉百人一首』の和歌に見てみましょう。
人に知られで くるよしもがな/三条右大臣
訳:逢って寝るという名を持つ逢坂山の小寝葛(さねかずら)を手繰り寄せるように、誰にも知られずあなたを手繰り寄せて連れ出すことができればいいのに。
長くもがなと 思いけるかな/藤原義孝
訳:あなたのためなら惜しくないと思っていた命なのに、思いを遂げた今となっては、少しでも長くあればいいのにと思うようになりました。
今日を限りの 命ともがな/儀同三司母
訳:「忘れない」という言葉は、この先ずっとというのは難しいでしょうから、いつか嘘にならないよう私の命が今日限りであればいいのにと思います。
今ひとたびの 逢うこともがな/和泉式部
訳:私の命はもう長くないでしょう。あの世へ行くための思い出に、今もう一度あなたにお逢いしたいものです。
人づてならで 言うよしもがな/左京大夫道雅
訳:今となっては、あなたを諦めるという言葉を、(引き裂かれて逢えなくなってしまった)あなたに直接言う方法があればいいと思うばかりです。