「予定調和」とは
「予定調和」という言葉は、現在では以下の2つのことを意味します。ですがこの言葉を聞いてまず、ライプニッツを思い起こす人は少ないかもしれません。
1.近世のドイツの哲学者・ライプニッツが単子論の中で使用した用語。宇宙を構成する単子(モナド)の調和は、それをあらかじめ決めた神の存在によるものである、という考え。
2.当然そうなるであろう、とみんなが考えるとおりに物事が進むこと。
辞書によって(特に出版年が古いもの)は「1.モナドの調和」の意味しか掲載されていないものもありますが、現在では大半が「2.みんなが考えるとおりに物事が進むこと」の意味だと考えて問題ないでしょう。日常会話レベルにとどまらず、政治・経済など比較的しっかりしたメディアの記事でも、後者の意味で使われています。
中でもTVドラマ、映画、マンガ、アニメのストーリーや、音楽のメロディーのコード進行、事の成り行きを評価して言うケースが多いかと思われます。時代劇「水戸黄門」や戦隊シリーズなどをイメージするとよいかもしれません。「2.みんなが考えるとおりに」展開していき、最後は「やっぱりね」という結末で締めくくられます。
「予定調和」の使い方
「予定調和」を使った例文をいくつか挙げてみます。
「従来の朝ドラの型にはまらず予定調和に陥らないストーリーが、話題を呼んでいる」
「生放送で予定調和的な展開をぶち壊す」
「ヒット曲にはすべて、予定調和的な隠し味が潜んでいる」
「本来主流派の彼が対抗馬として立候補するのは、いささか予定調和といわざるを得ない」
「国内での防衛戦をクリアして海外を目指すというのが、予定調和的な路線でしょう」
「化学反応が期待できない点で、予定調和の限界がある」
ビジネスでの「予定調和」は要注意
とかく日本人は、予定調和を望む傾向が強いという指摘があります。時短や摩擦を避ける意味で一定の評価がなされる一方、破綻企業では意思決定プロセスに予定調和的色彩が強いとの分析もあり、悪者視される傾向が強まっています。不用意に「予定調和ですね」などと言うと、相手に不快感を抱かせるかもしれないので、注意しましょう。
「予定調和」と似た言葉
「予定調和」と同じように使える言葉は、意外に多数存在します。例えば「予定通り」「シナリオ通り」「既定路線」「出来レース」「ワンパターン」「お決まりの…」「無風」「やらせ」などです。
「予定調和」の対義語
2001年、AppleのiPodが発売された当初、ユーザーは「シャッフル」機能に驚きました。次にどの曲が再生されるのか分からないという感覚はまさに、予定調和の対極の意味でとらえてよいでしょう。この「シャッフル」の他「サプライズ」「想定外」「予想外」「セレンディピティ」などが挙げられます。
哲学としての「予定調和」
「予定調和」の本家・ライプニッツが聞けば「予定調和とはそんな意味じゃない」と怒り出すかもしれません。そこで、哲学でいう本来の「予定調和」にも触れておきます。
発祥はライプニッツ
哲学者・ゴットフリート・ライプニッツは、彼が考えた「単子論(モナドロジー)」という宇宙論の中で「予定調和」と使いました。ライプニッツ哲学の根本原理とされています。宇宙は異なったレベルのさまざまなモナドによってできており、それぞれは相互に作用し合わないものの、神の意志によってあらかじめ定められている全体的な秩序があると考えました。ライプニッツはこれを「予定調和」と名付けました。ドイツ語表記ではprästabilierte Harmonie、直訳すると「あらかじめ確立された調和」となります。
日本では
prästabilierte Harmonieに「予定調和」という翻訳が当てられるようになったのは、1901年(明治34年)の波多野精一著「西洋哲学史要」からのようです。ただ、いつ頃から「2.みんなが考えるとおりに物事が進むこと」の意味で使われだしたかは、よく分かりません。1950年代の現代俳句に関する論説に「予定調和」を含む表現があるので、このあたりまで遡ることが可能かもしれません。