「未必の故意」の読み・意味
「未必(みひつ)」は、「現在は何も起きていない状態だが、将来起こる可能性があると予測できる」という意味で、「故意(こい)」は、「わざと、意図的に」という意味です。「未必の故意(みひつのこい)」とは、「将来起こりうるかもしれないと予測できるにもかかわらず、敢えてそうなるような行為をする」という意味です。
普段の会話では使われない言葉ですが、あえて事例といえば刑事ドラマなどで容疑者が「死ぬなんて思わなかった」とか、自動車事故を起こした当事者が「事故を起こすなんて思わなかった」といった心理状態が「未必の故意」であるというと分かりやすいのではないでしょうか。
「未必の故意」の用例
「未必の故意」は、主に法律の世界で多く使われる言葉です。刑法第38条1項の「故意」の項目で「罪を犯す意思がなければ、罪に問われない。ただし、法律に特別の規定がある場合はこの限りではない」の「ただし~」の部分が「未必の故意」にあたります。
- 裁判で、起訴されていたA被告は「未必の故意」により実刑判決となった。
- 罪を犯す意思のない場合は罪に問われないが、罪だと認識しながらも行為をするのは「未必の故意」といい、れっきとした犯罪になる。
「未必の故意」の実例
今までに「未必の故意」疑惑のある事件・事故の実例は数多く起きていますが、2014年に実際に起きた事件を挙げます。
セウォル号の沈没事件
2014年4月16日に韓国沖を航行中の旅客船セウォル号が沈没事故を起こし、死者281名、行方不明23名を出した大惨事となりました。しかしその後の韓国当局の調べで、船の乗組員が乗客の避難を制してまで自分の身を守ることを優先したという不適切な行動があったと判明し、「未必な故意」的な事件として起訴されました。
「未必の故意」を英語でいうと
- conscious neglect「認識ある過失」
- willful negligence「故意の不注意および過失」
- wilful negligendolus「故意の不注意および過失」
- dolus eventualis (ラテン語、これは実際に法律用語として用いられています)
「未必の故意」の本
「未必の故意」をテーマにした小説・戯曲があります。ここで4作品ほどご紹介します。
10万分の一の偶然(松本清張・1981年発表)
この作品は1981年に関根(高橋)恵子、泉谷しげる主演で、2012年に中谷美紀、田村正和主演で2度ほどテレビドラマ化されています。
『未必の故意』(阿部公房・1971年初演)
初演は1971年俳優座で、主演は井川比佐志です。1964年にTBS系列で『目撃者』というタイトルで放映されたテレビドラマを演劇用に書き直したのが1971年初演の戯曲です。なおテレビドラマ版の出演は内藤武敏、市原悦子他です。
『未必の故意』(北上秋彦・2003年発表)
交通事故をテーマにした6編からなる短編集『現場痕』のうちの1編です。
『未必の故意』(森澤勝著・2005年発表)
「松田建材社長はなぜ『事故死』したのか? 日本の金融制度に内在する闇を抉る実録小説」(本書帯より)
「未必の故意」のイメージ
このように「未必の故意」とは、悪い状況になるかもしれないと認識しながらも止めることなく行動していまう心理状態を指す言葉で、決してイメージの良い言葉とはいえません。普段使うような言葉ではないですが、できればこの言葉を使うような状況になりたくないものです。