「イニシエーション」とは?
「イニシエーション(initiation)」とは、ある集団の中で、一人前の成員として認められ、編入されることや、そのための手続き、儀式などのことを言います。
日本では「通過儀礼」と訳されることも
成人式や入社式などをイニシエーションとして挙げることができます。日本では、「通過儀礼(つうかぎれい)」と訳されることもあり、ほとんど意味は同じですが、「イニシエーション」の方がより宗教的意味合いを含むことが多いようです。
古くは、宗教的・社会的な地位を認められるために、肉体的・精神的な苦痛や試練を伴うことも多かったようです。入れ墨、抜歯、割礼などをイニシエーションとして行うオーストラリア先住民の例もあり、このような事例は多く文化人類学の分野の研究対象となっています。
へネップと『通過儀礼』
フランスの民俗学者・文化人類学者であるアルノルト・ファン・ヘネップ(1873~1957)が、1909年に『Les rites de passage』(日本語でのタイトル:『通過儀礼』)という本を残しています。
イニシエーションを分類化し、体系化したこの著作は、文化人類学の古典として位置づけられ、のちの研究にも大きな影響を与えています。
日本でのイニシエーション
日本でも、さまざまな通過儀礼があります。
【お宮参り】
赤ちゃんが無事に産まれたことをその土地の守り神である氏神様に報告して、健やかに成長することを祈ります。一般的には生後1か月くらいに行われますが、地方によっても違いがあるようです。
【お食い初め】
赤ちゃんが産まれてから100日目に、一生、食べ物に困らないことを願って行われます。赤ちゃんは、この時期には実際には普通の食べ物は食べられませんが、鯛やお赤飯などを食べさせるまねをします。
【七五三】
男の子は3歳と5歳、女の子は3歳と7歳の11月15日に、健やかな成長を願って、晴れ着で神社にお参りします。公家や武家で行われていた、3歳の「髪置(かみおき)」、5歳の「袴着(はかまぎ)」、7歳の「帯解(おびとき)」の儀式がもとになっていて、現在のような形になったのは江戸時代の後期から明治時代にかけてのようです。
そのほか、帯祝い、お七夜、入学式や卒業式、長寿のお祝いなども、通過儀礼と位置づけることができます。
「イニシエーション」を使った作品
イニシエーション・ラブ
『イニシエーション・ラブ』は、2004年に発行された、乾(いぬい)くるみさんの小説です。1986年から1987年の、バブルのころの静岡市が舞台になっています。恋愛小説でありながらミステリーの要素も含んでいて、ミリオンセラーを記録しています。
2015年には、松田翔太(まつだしょうた)さん、前田敦子(まえだあつこ)さんの出演で、映画化もされています。
イニシエーションと「がん」
今や日本人の2人に1人が生涯のうちに一度はかかると言われている病気の「がん」ですが、この「がん」についても「イニシエーション」という言葉が使われています。
がんが発生する最初の段階を、「イニシエーション」と呼ぶ
がんが発生する最初の段階を、「イニシエーション」と呼びます。これは、発がん物質(イニシエーター)によってDNAが損傷し、それが修復されないまま遺伝子に突然変異として固定されてしまう段階です。「イニシエーター」には、放射線やウイルス、紫外線などがあると言われています。
ただし、これだけでがんが発生するわけではありません。本来ならば、免疫細胞の働きによって、イニシエーションの段階でその細胞は排除されてしまうからです。
「プロモーター」による増殖
イニシエーションの段階で排除されずに残ってしまった細胞が、「プロモーター」と呼ばれる物質によって増殖を始めた段階を、「プロモーション」と呼びます。この段階でも、まだ「プロモーター」が消失したりすれば、がんにならないこともあります。「プロモーター」には、たばこやサッカリンなどが挙げられています。
がんは「プログレッション」を経ると悪性に悪化
「プロモーション」の段階ののち、「プログレッション」と呼ばれる段階を経て、悪性変化の段階へと進みます。がんになるには、さまざまな要因があり、段階を踏んで発生することがわかってきています。