エリカとは
エリカはツツジ科に属する、700以上も種のある植物です。ほぼ1m以下の低木ですが、5mを越えることもある常緑樹。幹からたくさんの枝を出し、小さな花を稲穂のように密集してつける種が多いことで知られています。
開花の時期は品種によって異なり、そのほとんどの種が南アフリカに集中しています。日本では薄紅色の花をつける、ジャノメエリカがポピュラーですね。
エリカの花言葉
エリカは「孤独」「寂しさ」「ひとりぼっち」など、少しネガティブな花言葉を持っています。
イギリス北部やアイルランドの荒れ地をヒース(またはヘザー)と言いますが、そこに生えるエリカ属の植物もまたヒースと呼ばれることがあります。ヒース荒地は農業や牧畜に向かないため、人が定住することはあまりありません。人のいない荒野で孤独に咲く姿から、エリカの花言葉が「孤独」や「寂しさ」になったと言われています。
ただし人の姿がないというだけで、エリカ属やヘザーと呼ばれるギョリュウモドキ属などの植物は、枝葉を絡ませ合いながら群生しています。「孤独そう」なんて言われて、エリカとしては心外かもしれませんね。
品種によるエリカの花言葉
ジャノメエリカ…博愛・希望
スズランエリカ…幸福な愛
アワユキエリカ…協力
エリカの基本的な花言葉は「孤独」「寂しさ」などですが、種類別に見ると割合ポジティブな意味合いのものが多いですね。
エリカの利用①ブライヤーパイプ
エリカ属の植物であるエイジュ(学名エリカ・アルボレア)は、大きなものでは7m以上に成長し、春から夏にかけて白い花を咲かせます。
エイジュの木は燃えにくく軽いため、イタリアではパイプの原材料とされることも。エイジュの木の根を加工して作られたパイプは、ブライヤーパイプと呼ばれパイプの王様と称されています。ブライヤーパイプに浮かぶ、独特の木目に沿って滲んだヤニを磨き込むことによって、経年による風格が醸し出されるそうですよ。
エリカの利用②ヒースエール
ローマ帝国支配下の頃、スコットランド地方にはピクト人と呼ばれるコーカソイド種族の人たちがいました。関連する記録や遺跡が少ないため、今もって謎に包まれているピクト人ですが、彼らはエリカを利用してエールを醸造していたと言われています。
エールはラガービールと違い上面発酵にて醸造されたビールの一種です。エールに使用されるのはほとんどがホップですが、ピクト人はエリカを使ってヒースエールと呼ばれるビールを醸造していたと言うんですね。
しかし4世紀頃、初代スコットランド王であるケネス一世がピクト人を攻撃した折、ヒースエールの醸造方法は永遠に失われてしまったと言います。そのエピソードを、立原えりか作の『花ことば』より以下に引用してみます。
「エリカビールのつくり方を教えてくれ。教えてくれたら、わたしの部下にとりたてよう。」
ケネス王は言いました。
「お断りします。エリカビールはピクト人のほこりでした。敵の王に、民族のほこりを渡すことはできません。」
ピクト人は答え、どんなごうもんを受けてもひるみませんでした。怒りくるった王は、父親の目の前で息子を殺しました。それほどの目にあえば、エリカビールの秘法を口にするにちがいないと考えたからです。けれど、ピクト人の父親はきびしい声で言いました。
「王よ、わたしはあなたをにくみます。エリカビールは、愛し合う人びとのためのもの、にくんでいるあなたのものにはなりません。」
それっきり、ピクト人はひとことも口をきかずに息子のあとを追いました。
立原えりか作 『花言葉』より
ケネス王が拷問してまで手に入れようとしたヒースエール、一体どんなものか気になりますね。一説によれば、エリカは醸造すると麻薬に似た効果を発現することで、“魔法の飲み物”と言われていたのだとか。何にせよ、ヒースエールがピクト人と同様、謎に満ちた幻の酒となってしまったのが惜しまれます。