杏(あんず)とは
杏(あんず)は杏子とも表記され、英語ではアプリコット(Apricot)と呼称されます。バラ科サクラ属の落葉高木で、果実は6~7月の初夏に実り、この時期に収穫されます。黄色~橙色の実は、梅と桃に形は似ていますが、大きさは梅より大きく桃より小さめです。
原産地は中国北部、中央アジア、ヒマラヤ西部とされていて、日本には古くに中国から渡来しました。ヨーロッパやアメリカほか世界各地で栽培されており、日本での生産の大半は青森県と長野県です。
中国の漢名は「杏子」で、杏は木を、子は実を意味し、「杏子」の唐音から「あんず」と呼ばれるようになりました。なお杏は別名「唐桃(カラモモ)」ともいいます。
杏の月名
旧暦において2月の呼称は、如月(きさらぎ)が一般的です。しかし中国の旧暦には複数の呼称があり、2月には「杏月」(きょうげつ)の呼び名もあります。杏の花の咲く時期から付けられたとされています。
杏のエピソード
三国時代、中国の名医・董奉(とうほう)が、患者から治療費をとる代わりに、杏の木を植えさせていました。数年後に杏の林となり、その実からとれる種子の杏仁(きょうにん)を漢方薬として使いました。そこから中国では「杏林」は医者の美称となったのです。
杏の花とは
杏はもともと冷涼な気候に適しているため、桜より早めに咲く花です。3~4月の早春、白色~淡紅色の梅に似ている花を枝いっぱいにつけます。花びらは5枚で、開花する時には葉はありません。花の季節は春で、実の季節は夏となるのです。
長野には「あんずの里」と呼ばれる場所があり、開花期の3月末~4月中旬にかけ「あんず祭り」を開催しています。山間の斜面にあんず畑が広がり、花の満開時期は壮観で、江戸時代から評判の名所です。
杏の花言葉
杏の花言葉は日本と西洋でほぼ同じですが、一部の花言葉は、花ではなく実に対して付けられています。誕生日花が杏の日もあわせて以下に紹介します。
【日本】
- 臆病な愛
- 乙女のはにかみ、乙女の恥じらい(桜より一足早く咲いて、乙女がはにかむように咲くから、また乙女が恥ずかしがっているような姿にみえることが由来)
- 早すぎた恋
- 疑い、疑惑…杏の実に対しての花言葉
- timid love(臆病な愛)
- doubt(疑い)
- distrust(疑惑)
- 2月23日
- 3月1日
- 4月12日
- 10月2日
杏の使い方
杏は食用としてばかりでなく様々な用途があります。効用もあわせて以下に紹介します。
食用としての生や乾燥した杏
【なま杏として】
一般的に杏は酸味が強いため、生食より加工品として使われることが多いです。しかし栽培地域により酸味の強さに差があり、ヨーロッパで品種改良されたものは、比較的に酸味が弱く生でも楽しみやすいとされています。日本でも一部の長野産など生食可能です。
【干し杏として】
世界各地でドライフルーツとして、葡萄と同様に干し杏は作られています。地域により酸味が少なめのトルコ産、酸味がしっかりある南アフリカ産、アメリカ産などと分れますので、甘みとのバランスも考え、好みの産地を見つけるといいでしょう。
菓子パンやケーキのトッピングとして杏を使うことも多く、フレッシュな杏はより季節感を味わえますね。
加工品としての杏
- ジャム、シロップ漬け、ピューレ、あんず酢、あんず飴、缶詰など
- アマレット・・・杏の種の核で作られたイタリアのリキュール
- 杏仁豆腐(あんにんどうふ)・・・杏の種の核で作られ、もとは薬膳料理の一種
- あんず油・・・杏の種子から抽出されるヘアオイル。髪油
漢方薬の杏
杏の種子の中の白い仁(さね)は杏仁(きょうにん)と呼ばれ、生薬として咳止めや痰を抑えたり喘息を改善する効果があり、また便秘の治療などにも使われます。漢方処方として用いられているのです。
もともと中国では、杏は食用というよりは杏仁を収穫するために栽培されていたと言われてます。ただし杏仁の種類によっては毒性があるため、食用として禁止されている杏仁もあり、専門的知識のない人が杏仁を食べるのは危険です。
その他の杏の効用
杏はβカロテンの含有量がずば抜けて多く、これが体内で抗酸化作用になるビタミンAとして働くことから、アンチエイジングに適していると言われてます。またリンゴ酸やクエン酸の含有量の多さは、疲労回復に効果的です。他にも杏がもつ成分から、冷え性、高血圧予防など様々な効用が挙げられています。
杏の種の中にある杏仁ひとつをとっても、食用としては“あんにん”、漢方薬としては“きょうにん”と使い分けるように、杏の用途は幅広いです。また綺麗な花を咲かせるので鑑賞もでき、実は美味しいうえ何より効用が高いので、杏を日々の生活のなかで上手にとり入れたいですね。