「郷に入っては郷に従え」の意味
「郷」というのは、古代中国の行政区間の呼び名です。また、里や田舎の事も意味します。
「郷に入っては郷に従え」は「ごうにいってはごうにしたがえ」と読みます。風俗、習慣、文化というものは、その土地によって違うものだから、ある土地に行ったらその土地の習慣や風習に従いなさい、という意味です。「郷に入りては郷に従え」「郷に入らば郷に従え」など少し形が違うものもあります。
世界の国々でも、日本の町でも、風俗や習慣、文化というのは本当に様々です。新しい環境に身を置くことになったなら、自分のやり方に固執するのではなく、柔軟な心でその土地のやり方に合わせた方がトラブルがないですよ、うまく世渡りできますよ、という教えです。
「郷に入っては郷に従え」の使い方
- この土地は南国ならではののんびりムードが漂っていて、役所での手続きひとつとってもなかなか思うように進まない。郷に入っては郷に従えだとわかっていても、イライラしてしまう。
- 海外旅行に日本食を持って行く人もいるようだが、郷に入っては郷に従えで、屋台などで地元の人たちと同じものを食べてみたいと思っている。
- 前の職場は本当に働きやすかったのだと、転職してから気づいた。でも、郷に入っては郷に従えだ。早く新しいやり方に慣れて、楽しく仕事がしたい。
上の二文のように、よその土地に行った場合だけでなく、下の一文のように、職場やサークルなど所属する組織や集団がかわった場合などにも同じように使うことができます。
「郷に入っては郷に従え」の出典
「郷に入っては郷に従え」と同様の表現が確認できる最も古い文献は、紀元前の中国の『荘子』の山木篇にある以下の一節だと言われています。
(その俗に入ってはその令に従え)
日本においても多くの文献で確認されていますが、古いものとしては『童子教(どうしきょう)』にこんな表現があります。
(俗に入ったら俗のやり方に従え)
『童子教』というのは、鎌倉時代末期から明治初期まで広く使用された初歩の教科書です。日本でも随分古い時代から広く使用されてきたことわざなんですね。
「郷に入っては郷に従え」の類語
- 門に入れば笠をぬげ
- 国に入ってはまず禁を問え
- 所の法に矢は立たぬ
- 里に入りて里に従う
同じような表現はたくさんありますが、「郷に入っては郷に従え」がいちばんよく使われていることわざのようですね。
「郷に入っては郷に従え」の英語表現
英語にも「郷に入っては郷に従え」と同じような意味の有名なことわざがあります。一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
- When in Rome, do as the Romens do.(ローマにいるときはローマ人がするようにせよ)
また他にもこんな表現もあります。
- Every country has its law.(どんな国にもそれぞれの習わしがある)
- He that does as neighbours do shall be beloved.(隣人たちのするようにするものは愛される)
- There is safety in numbers.(多数の中にいた方が安全である)
- Do as most men do, then most men will speak well of you.(皆がやるようにすれば人によく言われる)
「郷に入っては郷に従え」の各国での表現
- 山小屋ではメェーと鳴き、水牛の囲いではモーと鳴け(マレーシア)
- 片目の国に行ったら片目になれ(イラン)
- その水を飲めばその習わしに従う(モンゴル)
- 仲間に入れば修道士でも妻帯する(セルビア)
- どこへ行こうとその土地の衣装をつける(マルタ)
- ある国で王の妹が踊るなら請願に行く者は踊りながら現れることを恥ずかしがってはならない(セネガル)
「郷に入っては郷に従え」と同様のことわざは世界中の国々にありますが、その表現のしかたは国によって大きな違いがあります。比較的気軽に従えそうなものもあれば、難しそうなものもありますね。