「取り計らう」とは?
「取り計らう」という言葉は、「取り」と「計らう」という2つの言葉で構成されています。実は、「取る」は動詞ではなく強調の接頭語ですので、「取り計らう」の意味は「計らう」に拠ります。
「取り計らう」を解説するまえに、まずは「取り」と「計らう」それぞれの意味を見ていきましょう。
「取り」の意味
「取り」という言葉の意味は、3つにわけることができます。
- 動詞:「取る」の連用形。
- 名詞:多義的な言葉ですが、おもな意味は取ること。また、何かを取る人(例:相撲取り・高給取り)や、寄席などで最後をつとめる人、など。
- 接頭語:動詞などの前に付き、語調を整えたり、あとに続く言葉を強調する(例:取り調べる・取り繕う)。
「計らう」の意味
「計らう」も多義的な言葉で、大きくわけると5つの意味をもちます。そこに共通するのは、考えたり策を講じたりするため工夫や努力といえましょう。
- 考え合わせて適切に対処する。
- 何かを決める目的で相談する。
- 計画を立てる。企てる。
- 適当に選び定める。見当をつける。
- 相手の状況をふまえて柔軟に対処したり手加減する。
意味2は相談相手の存在があってのことなので例外となりますが、その他のすべての意味は、「取り計らう」に関連します。
ところで、時代劇には「良きに計らえ」という台詞が良く出てきますね。これは位の高い人物が配下などに「適切に処理せよ」と命ずる言い回しです。現代日本では、友人間などで冗談めかして「好きにやっていいよ・うまくやっといてくれ」などの意味で使うことがあります。
「取り計らう」の意味
「取り計らう」は、「計らう」の意味(意味2を除く)が接頭語「取り」によって強調された複合語です。よって、一言で言えば、「取り計らう」とは物事をうまくかたづけるという意味です。
「取り計らう」の使い方
「取り計らう」は、日常会話ではあまり使われませんが、ビジネスシーンでは頻繁に登場します。使う相手によって言い回しが異なりますから、しっかり覚えておきましょう。
「取り計らう」を用いるシーンのひとつは、相手になにかを依頼する、つまり支援や助力を乞うような場合です。もうひとつは、尽力や心遣いなど、相手がしてくれたことに感謝を述べるときです。
「取り計らう」の使い方①依頼するとき
「取り計らう」を依頼時に用いるとき、目下の人に対してならば「よろしく取り計らってくれ」のように単体で使ってかまいません。しかし、目上や取引先を対象とする際は、敬語や丁寧語と組み合わせる必要があります。
また、依頼の内容がこの言葉に釣り合っているかを判断して使うこともポイントです。単純な頼み事にこの言葉を用いると、大げさで的外れな表現となります。
例えば、すでに了承が得られた案件について、上司に「押印のお取り計らいをお願いいたします」と言うのは大げさです。上司も裏工作の依頼でもされたのかとギョッとするかもしれません。この場合は、「押印をお願いいたします」で十分です。
【例文】
- 佐藤君、この案件はちょっと取引先ともめているんだよ、うまく取り計らっておいてくれ。
- このたびのお願いごと、お取り計らいいただきますよう、何卒お願いいたします。
- 下請け業者の選定につきまして、お取り計らいのほど、よろしくお願い申し上げます。
「取り計らう」の使い方②感謝を述べるとき
自分のために骨を折ってくれた相手に感謝を伝えるのは重要です。「ありがとう」などの感謝の言葉に「取り計らう」を加えることで、相手が自分のために思考、努力してうまく対処してくれた、という一歩ふみこんだ表現で感謝を伝えることができます。
こちらの場合も、目上や顧客を対象とする際には、敬語や丁寧語と組み合わせるのを忘れないでください。
【例文】
- この前のクライアントとの打ち合わせ、君が取り計らってくれて助かったよ。
- このたびは、格別なお取り計らいをいただきまして、心より感謝申し上げます。
- 貴社のお取り計らいなしにイベントの成功はありえませんでした。ありがとうございました。
「取り計らう」の誤った使い方
上の使い方の項目で、目上が目下に依頼や感謝を伝えるときは「取り計らう」を単体で使えますが、目下が目上に伝えるときは敬語や丁寧語と組み合わせると説明しました。
では、例えば、上司に「コンペの準備をしろ」と指示されたときに、部下が「取り計らいます」と返すのは正しいでしょうか?ビジネスシーンにおいて、目下が目上のために動くことを、「(私が)取り計らう」と言うのは失礼とされています。
「取り計らいいたします」であれば謙譲表現ですが、あまり使わない言い回しです。目下が目上に対して言う場合は、「できる限り努力いたします」などの表現に置き換える方が自然でしょう。