「無敵の人」とは
「無敵の人」とは、失うものが何もない人のことです。失うものとは、社会的信用、財産、親族、生活などです。たとえば、社会人が事件を起こすと、会社をクビになり、財産を失い、家族にも突き放され、生活もできなくなり、刑務所に入る可能性もあります。
しかし、身寄りもお金もない無職が、事件を起こしたらどうでしょう。クビになる会社がない、失う財産もない、突き放される親族もいない、たとえ今のような生活ができなくなっても、構わないと思っているかもしれません。つまり、失うものがないのです。
財布の中身が空っぽならば、盗まれる心配はないですが、それと同じく、最初から何も持っていないのならば、失うものもないのです。失うものがないのならば、罪を犯すことは簡単だと考える人もいます。これらが、無敵の人です。
「無敵の人」の使い方
無敵の人はネットスラングなので、現実社会ではあまり使いません。無敵の人の一部には、何か派手なことをやってやろうと考えている人もいるので、もし、彼らが事件を起こしたときに、「無敵の人が事件を起こしてしまったか」とネット上に書き込むことがあります。他にも、「また無敵の人か」「無敵の人事件」などと使うことができます。
誰が最初に言い出したか
「無敵の人」という言葉を最初に使ったのは、インターネット掲示板2ちゃんねるの創設者である、ひろゆき(西村博之)さんです。2008年に、自身のブログで、「失うものがない人は逮捕にリスクを感じない、それなのに警察を動員させるなどの社会的影響力を持っている」と考えを述べたうえで、「そういう人たちを無敵の人と呼んでいます」と締めくくりました。
「無敵の人」が起こした事件
何か事件が発生し、犯人が逮捕されると、犯行の動機や供述といったものが報道されます。なかには、人々の関心を引きつけるような事件もあります。ここでは、その一部をご紹介します。
黒子のバスケ脅迫事件
黒子のバスケ脅迫事件とは、2012年10月から、黒子のバスケの作者である藤巻忠俊さんや、作品に関連する場所やイベント会場が次々と脅迫された事件です。2013年12月に、犯人は逮捕されました。
犯人の供述によると、藤巻さんの人生と自分の人生が違いすぎるために、「人生格差犯罪」と名づけて犯行に及んだそうです。また、裁判中には、「無敵の人に、社会はどう向き合うのかを考えるべき」「こんなクソみたいな人生、やってられないから、とっとと死なせろ」と叫びました。
犯人は、日雇いで働き、年収200万円以下で、恋人もいませんでした。犯人の置かれていた状況や犯行の動機は、多くの人の注目を浴び、社会問題として取り上げるメディアもありました。
新幹線殺傷事件
2018年6月9日、東京発新大阪行きの新幹線「のぞみ」の車内で、犯人がナタを振るい、1名が死亡し2名が重症を負う事件が発生しました。犯人は発達障害を抱えており、中学性の時に不登校となってからは、自立支援施設過ごし、仕事もしていなかったそうです。
この事件を受けて、ネット上では、「いくら逮捕しても、こういう人はいなくならない」「事件を減らすには社会が安定しないといけない」などの意見がみられました。また、発達障害を強調する報道のやり方に、「発達障害の人はみんな危険人物だと誤解されてしまう」と不安がる声も聞かれました。
大きな社会問題に
「無敵の人」が起こす事件には、「周囲が羨ましかった」「こんな人生が嫌だった」「相手は誰でもよかった」という動機や供述が、ほぼ共通してみられます。特に、秋葉原殺傷事件のような無差別テロでは、多くの一般人が巻き込まれてしまいます。
事件が発生するたびに逮捕するのでは、根本的な解決には至らないという指摘もあります。「無敵の人」が事件を起こすたびに、社会を恨む声や、犯人に同情的な声が、一般人からも少なからず聞かれます。ネット上でも事件をめぐって議論が白熱しますが、それは、犯人の生い立ちや背景といったものにも、関心が寄せられているためでしょう。