「本懐」とは?
「本懐」(ほんかい)とは、「かねてからの願い、本望、本意」という意味の言葉です。古くは「ほんがい」と後ろが濁る形で発音されました。
「本懐」の「本」は、ここでは「本来の」「本質の」「大本の」「本当の」といった意味であると考えればよいでしょう。
しかし、一方の「懐」の字はどうでしょうか?「懐(なつ)かしい」という読みがよく知られていますが、これがなぜ「願い」につながるのでしょうか。少し深めておきましょう。
「懐」の字について
「懐」の字は、「心にいだく」がもともとの意味です。故郷の情景などを心にいだけば「懐かしい」、疑いをいだけば「懐疑的」、赤ちゃんをいだけば「懐妊」、ポケットなどに入れて温めるものは「懐炉(かいろ)」という具合ですね。
「本懐」ですから、「もとから心にいだくもの」「本当にそこにいだいていたもの」…すなわち「願い」という意味が出てくるわけですね。
「本懐」の使い方
「本懐」はただ単純な「願い」について使うのではなく、長い間抱え続けていた願い(長年の夢、一世一代の目標)や、あまり表面に出してはいなかったものの実際はずっと願い続けていた事柄を指して使います。
「作家としての本懐」「男子としての本懐」などのように、多くは人生そのものと一体化した望み事について使い、その願いを叶えることを「本懐を遂(と)げる」「本懐を果たす」などと表現します。
逆に言えば、一回の人生においてふたつもみっつも「本懐」をかかえるようなことはまずありません。もしかかえたとしてもそれは「本懐」ではなく、単なる一過性の欲求に過ぎないでしょう。
「物事のあるべきさま」という意味合いもある
「本懐」は多くの場合は「人間のかねてからの願い事」という意味なのですが、稀に「物事が本来そうあるべきさま」という意味合いで使われることもあります。
この場合は、何らかの物事が「本来そうあるべきものであると願うこと、一般にも当然そう願われているであろうこと」と解釈すればよいでしょう。
例えば「男の本懐」という言葉の中には、「女性と交わること」や「お国のために尽くすこと」といった、「男なら誰でも物事がそうあるべきと願うこと」という意味合いが暗黙のうちに含まれている場合があります。
用例
- 昼は営業担当の会社員として働きながらも、彼は画家になりたいという本懐を忘れることなく、毎夜絵を描き続けていた。
- もしも戦いの中で傷つき倒れることになろうとも、それが友のための戦いであるのならば、私の本懐とするところだ。
- 世界一周旅行を敢行していた彼は、結局本懐を遂げることなく、道半ばにして病に倒れた。
- 女性にまったく興味がないと公言していた彼も、「男の本懐を遂げずに死んでもいいのか?」と言われて、少なからず動揺を覚えた。
漫画作品『クズの本懐』について
『クズの本懐』は、2012年から2017年まで月刊ビッグガンガンで連載されていた横槍メンゴ氏による漫画作品です。2017年にはアニメ化もされるなど大きな人気を博し、海外でも一定の人気を得ました。
どんな作品?
『クズの本懐』は、女子高校生である主人公を中心とした複雑な人間関係とその恋愛模様を描くストーリーであり、「好きな人がいるが、その想いが叶わないとわかっている者同士の疑似的な肉体関係、心理的葛藤、かけひき」を主題として描く作品です。
主人公は想い人への恋愛感情という「本懐」をかかえつつも、様々な事情でそれをストレートに表現できないがために嫉妬や自己嫌悪にまみれていきます。
実際には主人公は文字通りのクズとは言えないのですが、生来の純真さや本懐の重さゆえに揺れ動き、堕落していく理性を主人公自らが「クズ」と自称したことが、『クズの本懐』というタイトルネーミングの由来ではないかと考察されます。