「香具師」とは?
「香具師」とはどんなイメージでしょう。お祭りとか縁日と関係がありそうな…。何となくわかっていても、しっかり説明するのはなかなか難しいですね。
映画「男はつらいよ」シリーズの主人公・フーテンの寅さんは「香具師」です。純朴でやさしさあふれる人物として描かれ、非常に愛すべきキャラクターでした。劇中で寅さんが披露する小気味よい売り口上は、いわゆる香具師の口上と言われるものです。
一方、ネットの掲示板などでは、ちょっと違う使い方をされています。では、「香具師」について、詳しく見ていきましょう。
「香具師」の読み方
読み方は一般的には「やし」です。「こうぐし」と読むこともあります。「野士」「野師」(ともに読み方は「やし」)と「香具師」の意味が重なり、同じ人たちを指すようになったため、現在一般で読まれるような「やし」という読み方が定着したようです。
「野士」「野師」という言葉は戦国時代から、あるいはもっと古く鎌倉時代から別の意味を持つ言葉として使われていました。ですから「香具師」と「野士」「野師」は本来、違う人たちを指していました。
「香具師」の意味
「香具師」を「こうぐし」と読んだ場合、その字の通り、香具を作ったり売っている人を意味しました。香具とは、沈香(じんこう)、麝香(じゃこう)などの香りを出す材料のこと、または香道に用いる道具のことです。
ところが、「やし」という読み方になると、以下の2つの意味となります。
1.お祭りや縁日などの人通りが多いところで、露店を出して(インチキな?)品物を売ったり、見世物などの興行を生業とする者。
2.さらにそうした露天商の場所の割り当てや、彼らを仕切る仕事をする者。
寅さんは1.に該当します。
「香具師」は怪しげな人物?
大正初期の文献には「(香具師とは)詐欺的商行為者」とするものや「(インチキなものを売り)不当の利益を貪ることを渡世としている者」という記述があります。つまり、寅さんのような好人物ではなかったことをうかがわせます。
大正10年発表の小川未明の童話「赤い蝋燭と人魚」では、老夫婦に人身売買(正確には人魚身売買)を持ちかけるという役柄で香具師が登場します。香具師とは、利益のためには反社会的な行為も辞さないような、信用できない、どこか怪しげな人物だというイメージを集約したものでしょう。
「香具師」の類義語
また、「的屋(てきや)」や「山師(やまし)」も同じ意味で使われます。平成元年の警察白書には、「的屋」(=香具師)が暴力団の起源のひとつと明記されていました。実際に一般市民からみて、警戒すべき類の人たちであったようです。
「香具師」の使い方
ネット上では「やし」という読み方からの連想で「やつ」「あいつ」といった意味合いで使われています。例えば、以下のような使い方になります。
1.「こんなこと言ってる香具師(やし・やつ)がいた。」
2.「賛同する香具師(やし・やつ)はおる?」
3.「最近の若い香具師(やし・やつ)は…」
本来の露店で物を売る人という意味は飛んでしまいました。ただ、ネット用語としては古く、こうした使い方をする人は少なくなってきています。
「香具師」の由来
なぜ「香具師」が「やし」という読み方になったのかについては、諸説あります。
薬(沈香、麝香を含む)を売るというところに主眼を置くと、「売薬行商していた彌四郎という人物の名から」という説や「野武士(野士)が飢渇をしのぐために売薬をしていたところから」という説があります。また「香具の行商をしていたものが武士の戦争に加担するようになり、武士に対して野士(やし)と言われるようになった」とする説もあります。
シンプルに「山師(やまし)」の「や」と「し」を取って省略したものだとする説まであり、文献によりさまざまです。