「愛でる」とは?
「愛でる」は、その漢字から、「愛する」ことにまつわるものと推察できるものの、意外に多岐にわたる意味、繊細なニュアンスを持つ言葉です。
意味は大きくわけて3つあります。①対象の美しさに浸り、感動すること。②対象を可愛がり、慈しみ、愛すること。③感心し、ほめること。
現代日本語では、③の意味はほとんど用いられることがなくなりましたが、①②は頻繁に使われます。少々古めかしい言葉ですが、とても繊細なニュアンスを含みます。
「愛でる」の語源
「愛でる」が、少々古めかしく感じるのも、当然のことかもしれません。この言葉の語源は「愛づ」(めづ)で、日本最古の物語とも言われる「竹取物語」にも登場する、きわめて古い日本語なのです。しかし、その意味は今とほぼ変わりません。
「愛づ」の「づ」が変化し「愛でる」となったという説が有力です。古来、日本では、花鳥風月を楽しみ、歌を詠む文化が今より盛んでした。その中で、「愛でる」は、「I LOVE YOU」のような単なる「愛」のみではない繊細な意味を含むのです。
そのニュアンスを深く理解するために、意味①、意味②の項目にわけて、それぞれの使い方と文例を後述してゆきます。
「愛でる」の使い方と文例
意味①の「愛でる」の使い方
意味①の、対象の美しさを味わい、感動する「愛でる」。昔から日本では桜花を格別に愛し鑑賞してきました。文芸においても、俳句、短歌、詩などでも名作が目白押しです。ただ美しさを眺めるのではなく、浸り味わうからこそでしょう。
現代でも、「お花見」では、人と集い、盃をかわし、お弁当をひらきながら、五感全体で満開の桜を味わい浸り、楽しみます。また、散る風情も「花吹雪」などと称し、そこに儚さなどもあわせて味わうのです。
①の意味の「愛でる」を使うときには、このような「味わい、浸り、感動する」という奥行きの深さを把握して表現したいものです。
意味①の「愛でる」の文例
- 中秋の名月を愛でているうちに、心が落ち着き癒されて、いつのまにかストレスが消えていた。
- 満開の桜の木の下で、人々は花を愛で、お酒を楽しみお弁当をひらき、春の宴を満喫していた。
意味②の「愛でる」の使い方
意味②の、対象を慈しみ、愛し、可愛がる「愛でる」。辞書的な意味だけで考えれば、人間同士の愛情表現にぴったりのように思えますが、実際はほとんど用いられません。赤ちゃんや幼子を「愛でる」と言うぐらいでしょう。
意味②の使い方は、どちらかと言えば、ペットや小さくか弱い立場のものを、愛(いとお)しく思い、大切に慈しむ、可愛がる、というニュアンスが強くなります。したがって、子どもが親を愛することの表現に「愛でる」を使うことはありません。
意味②の「愛でる」の文例
- ペットのうさぎがあまりに愛らしく、家族みなで愛でては癒されている。
- 産まれた赤ん坊を祖母の家に連れて行ったら、祖母はひ孫の可愛さに、ほほをつつき、頭をなで、愛でて飽くことを知らなかった。
「愛でる」の類語
意味①における類語は、見とれる、心惹かれる、感嘆する、うっとりする、などを挙げることができます。
【文例】
- 夜空に鮮やかに浮かぶ中秋の名月に、思わず時間を忘れて見とれていた。
- 初めて目にしたオーロラの美しさと神秘に、ただひたすら感嘆していた。
意味②における類語は、可愛がる、慈(いつく)しむ、寵愛(ちょうあい)する、溺愛(できあい)する、などを挙げることができます。
【文例】
- 保護センターにいた捨て犬をもらいうけ、家族全員で慈しんで育てている。
- 女性を一人の人間としてではなく、ただ愛でるだけの存在としか見ない男性には疑問を感じる。