「手こずる」とは?
「手こずる」(てこずる)とは、「処置に困る」「もてあます」「閉口する」といった意味の言葉です。
これらの意味を一見すると、「手」(手段、手数)に関係する言葉であることはすぐわかりますね。そのため、語を分解すると「手」+「こずる」と思われるかもしれませんが、「~こずる」という言葉は知られていません。
実は「てこずる」を漢字で書くと「梃子摺る」または「手子摺る」であり、「てこ」+「ずる(摺る)」が正しい語の構造です。では、「てこ」(梃子/手子)とは何でしょうか?「摺る」とは何でしょうか?
「てこ」
「手こずる」の「てこ」は、簡単に言ってしまえば重い物を持ち上げるための道具、およびその仕掛けの「梃子(梃)」ことです。
さらに、梃子を使って働く人々(力仕事に従事する労働者一般)のこともまた、かつては「梃子」と呼びました。この人を呼ぶときの「梃子」は「手子」とも表記され、「手子の衆(てこのしゅ)」とも呼ばれていました。
ここから、専門の道具や人員を投入しなければならないほどの重い物、転じて処置に困る難題について「梃子/手子」という比喩を用いだしたのではないかと考えられます。
「摺る」
「摺る」(する)という言葉は現代では常用外であり、通常は「刷る」と書きます。文字や絵を紙などに転写する「印刷」の「刷」でおなじみですね。
この「刷る/摺る」にはまた、型木を当てて布地に模様を「染め出す」という意味もあります。「版画を刷る」にイメージが近いでしょうか。
正確なところは不明ですが、梃子で持ち上げようとするものがよほど重いことを地面などに梃子の模様が染め出されてしまうことに喩え、「梃子」+「摺る」と表現したのではないかと考えられます。
「手こずる」の使い方
「手こずる」という言葉は、広く何らかの手段・方法において「処置に困る」「取扱いに苦しむ」「手の打ちようがなく参る」というさまについて使うことができます。
少し変わった使い方として、過去形で「手こずった」と言う場合、「苦労はしたが成功した」「結果のために骨を折った」「問題解決や工夫のためにかなり努力した」というニュアンスとなり、自分の功労をアピールする目的でも使えます。
例文
- 民衆のリーダーとしていつも威風堂々としていた大統領も、娘のご機嫌取りには手こずっていたらしい。
- 予定より遅れてパーティーにやってきた教授は、「残っていた問題の処理に少々手こずらされてね」と頭を掻いた。
- 当初の想定ではさほど手こずる案件ではなかったはずだが、仕事は一昼夜に及んだ。
- 居酒屋で「あの堅物社長を説得するのは手こずったよ、二時間もかかったんだ」と部長は武勇伝のように吹聴した。
「手こずる」を英語で言うと?
「手こずる」を英語で言いたい場合は、「苦労する」や「困る」などのニュアンスをくみ取って以下のような表現を使いましょう。
- have trouble (with~)(トラブルを抱えている)
- have a hard time(~ing)(つらい時間を過ごす、ひどい目に遭う)
- handful(手に負えないもの・こと)
- stuck(困り果てた)
例文
- We are always having trouble with the arrogant boss.(私たちはあの横柄なボスにいつも手こずっていた)
- I had a hard time keeping up my fickle wife.(移り気な妻のご機嫌とりには手こずったよ)
- This issue is going to be a handful for me.(この問題は僕では手こずりそうだ)
- I was stuck by her question.(彼女の質問には手こずった)